■年金講座 女性と年金‐第3号被保険者問題
サイト目次を飛ばして本文へ



年金は本当に破綻するの?〜若者のための年金講座

5.1.1. 女性と年金‐第3号被保険者問題

 厚生年金は「世帯単位の給付を行う」と言う設計思想を持っています。
 かつては、単身者には1人分の年金を支給する一方で、奥さんを扶養している人には扶養手当(加給年金)をつける事によって、2人で暮らせるだけの年金を支給していました。

 しかし、加給年金は夫の年金の上乗せであって、奥さんの年金ではありません。離婚すると奥さんは無年金になってしまいます。
 それを救済するために、昭和61年改革で加給年金を廃止して、その分を奥さんに国民年金として払う事になりました。

 ただしこの時、政府は制度を大きくいじるのを嫌ったために、保険料の支払いについては現状通りと言う事にしてしまったのです。
 これが、「自分では保険料を払っていないのに年金がもらえる人達」(第3号被保険者)を産む原因になってしまいました。
 改革前の厚生年金は、妻を扶養しているかどうかにかかわらず、保険料率は一定でした。支給の段階になって加給年金を加えるかどうかで、妻帯者と単身者とで差をつけていました。
 現在の第3号被保険者制度でも、保険料の支払いに関しては変わりません。妻が第3号被保険者であるかどうかにかかわらず、厚生年金の保険料率は一定です。第3号被保険者のための国民年金保険料は、厚生年金制度が支払ってくれています。

 第3号被保険者達は、自分の国民年金保険料が無料であると言う認識はなく、夫が代わりに払ってくれていると言う捉え方をし、だから国民年金がもらえるのは当然の権利であると考えている人が多い様です(この考え方は間違っていません)。しかしその一方で、単身者や共働き世帯は「自分達がなぜ他人の家の専業主婦の国民年金保険料を払わなければならないの?」と言う意識が非常に強く(この考え方も間違っていません)、不公平感が煮えています。
 この不公平感が、いわゆる「第3号被保険者問題」と言うものです。女性のコミュニティでは、この第3号被保険者問題が原因で、いがみ合いに発展するケースもある様です。

 では、一体どうしてこんなにゆがんだ制度になってしまったのでしょうか?

 まずひとつに、厚生年金が「世帯単位」の設計思想を持っている事に原因があります。

 厚生年金は元々「所得比例部分」と「定額部分」(それに加えて、妻を扶養していれば「加給年金」)とで成り立っていました。昭和61年改革ではこの構成を大きく見直し、定額部分と加給年金は厚生年金から切り離して国民年金として支給する事になりました。
 国民年金は、厚生年金とは違って「個人単位」の設計思想を持った制度です。
 一方で、厚生年金は改革後も世帯単位の設計思想を守り続けています。厚生年金の保険料を払えば自動的に国民年金の保険料を払った事になる(厚生年金保険料に国民年金保険料が含まれている)のですが、個人単位の制度の保険料を世帯単位の制度で負担すると言う点に、矛盾が生じる事になってしまったのです。

 ふたつ目には、厚生労働省のモデルが実態とズレてしまっている事に原因があります。

 厚生年金の制度設計をする時の世帯モデルは、「片働き+専業主婦&40年間同じ会社に勤め続ける&離婚しない」と言うものです。
 しかしこのモデル、現在では決して多数派なんかじゃなく、とても恵まれたごく一部の人達なのでははないでしょうか?
 厚生労働省が想定しているのは、あくまでも片働きです。共働きは、2馬力で働く事によって所得が多く、豊かな生活をしている恵まれた人達であると想定しています。
 所得の高い共働きが、所得の低い片働きに支援しているのだと言うのであれば、なるほど第3号被保険者制度も納得出来ます。
 しかし現実には、所得が低くて暮らせないから、仕方なく共働きをしているのです。共働きの人達はみな、遊んで暮らせる専業主婦をうらやましく思っています。それなのになぜ、その様な人達の保険料を負担しなければならないのか、その点を疑問に思って不公平感が募ってしまっているのです。

 前に述べた通り、現在の状態では、片働き世帯でも共働き世帯でも、月収の合計が同じであれば、負担する保険料も得られる年金の権利にも差はなく、世帯単位で見る限りは不公平は生じていません。
 しかしそれでも、共働き世帯が他人の世帯の専業主婦の保険料を負担している事には違いはありません。

 もし、第3号被保険者問題を改革したならば、共働き世帯の保険料負担は減り、片働き世帯の保険料負担は増える事になります。また、その改革を行うと、厚生年金から「世帯単位」と言う考え方がほとんどなくなる事から、厚生年金はその役割を大きく変える事になります。

One Point

 第3号被保険者が誕生したのは、当時、某政党がゴネた結果でしかありません。ですから早急にあるべき姿にしなければならないのですが、第3号被保険者の世帯は所得の高い人が多く、政治的圧力となっているため、なかなか改革出来ないのです。

免責

 扱うテーマが「年金」と言う制度と法律に関するものではあるのですが、概念的な部分を取り上げるため、どうしても厳密さや正確さに欠ける傾向にあります。ですから、何かの判断の参考にする場合や手続きを行う時は、必ず別の情報源でも確かめて下さい。このページの記事により損害が発生しても、補償は一切いたしませんので、あらかじめご了承ください。



吉田社会保険労務士事務所 (c) NYAN@chimaki-tei 2001/2015
お問い合わせ先