■年金講座 厚生年金の所得再分配機能
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年金は本当に破綻するの?〜若者のための年金講座

4.2.2. 厚生年金の所得再分配機能

 厚生年金の年金額は、支払った保険料に比例していますが、厚生年金を払うと、それに見合った国民年金の受給権がオマケでついて来ます。
 もちろん国民年金の権利はタダでもらえるものではありません。国民年金の原資にするためのお金は、厚生年金の保険料の中に含まれているのです。

 そうなると、厚生年金加入者の場合は、支払った保険料と将来もらう年金(厚生年金+国民年金)とが、比例しなくなると言う事になります。条件次第で、損になったり得になったりするのです。

給料が多いか少ないか

 厚生年金の保険料をたくさん払った人も、ほんの少ししか払っていない人も、その保険料を払う事によって得られる国民年金の年金額には全く差がありません。この事は、保険料が少ない人ほど得をして、保険料が多い人ほど損をする事につながります。
 試しに、色々な給料の場合について、損益分岐点を計算してみましょう。

厚生年金損益計算表 月給の変化での比較
条件月給保険料年金の増加額損益分岐点
単身者15万円27,450円2,064円13年4か月
単身者28万円51,240円2,658円19年4か月
単身者44万円80,520円3,388円23年10か月

 この様に、給料が高い人は、いつまで経っても元が取れません。一方、給料が安ければ元を取るのが早いです。

 これが、厚生年金に仕掛けられている「金持ちから搾取して貧乏人に分け与える」所得再分配機能なのです。

単身者か妻帯者か

 厚生年金の保険料には扶養している妻(第3号被保険者)の国民年金のための原資も含まれています。しかしだからと言って、単身者や妻を扶養していない人の保険料が割り引かれている訳ではありません。この事は、妻が第3号被保険者の人は得をして、そうでない人は損をする事につながります。
 試しに、単身者と妻帯者とで損益分岐点がどう変化するかを計算してみましょう。

厚生年金損益計算表 単身者と妻帯者の比較
条件月給保険料年金の増加額損益分岐点
単身者28万円51,240円2,658円19年4か月
妻帯者28万円51,240円4,037円12年9か月

 この様に、とても大きな差があります。
 厚生年金は世帯単位の年金として運用されているので「単身者ならばその分だけ生活費がかからないはずなので、その分年金も安くていいだろう」と言う事で、この様な結果になってしまうのです。

グラフ:平均まで生きた場合の月収と年金額の損益分岐線は、原点を通る正比例の直線になります。一方で、実際の月収と年金額の関係は、正比例ではあるものの国民年金分だけ底上げされたものになります。男性の場合は単身者なら月収約25万円、妻を扶養するなら約50万円以上で元本割れとなり、女性の場合は単身者なら約40万円以上で元本割れし、夫を扶養するならあらゆる場合で元本割れしない事が、このグラフからわかります。

片働きか共働きか

 上記の結果から、妻が専業主婦の場合は、年金制度上でかなり優遇される(逆に言うと、単身者や妻を扶養していない人は、割を食う)と言う事がわかりました。
 そうなると、夫婦揃って厚生年金に加入している場合は、割の食い方も倍になってしまう様な気がして来ます。
 試しに、片働きと共働きとで、損益分岐点がどう変化するかを計算してみましょう。条件を揃えるために、共働きの両方の給料の合計と、片働きの給料とが同額になる様にします。

厚生年金損益計算表 片働きと共働きの比較
条件月給保険料年金の増加額損益分岐点
共働き夫19万円34,770円2,247円--
共働き妻11万円20,130円1,881円--
共働き合計30万円54,900円4,128円13年4か月
片働き30万円54,900円4,128円13年4か月

 この様に、月収の合計が同じである限りは、片働きでも共働きでも、結果は全く変わらない事がわかります。厚生年金は世帯単位の年金として運用されているので、この様な結果になるのです。
 ただし、もしも将来の年金改革で、第3号被保険者が自分で国民年金の保険料を払う時が来たならば、その分だけ厚生年金の保険料が下がるはずです。その場合、共働き家庭の保険料負担はかなり安くなるはずなので、現在の制度に不公平感を抱いてもらっても、それは間違いではありません。

One Point

 厚生年金では、単身者はかなりの割を食う事になります。パート程度の働き方ならしっかり元は取れますが、一人前に稼いでいる場合は正直言って元を取るのは難しいでしょう。
 これは「ヨメさん養う稼ぎがあるなら、さっさと結婚したまえ」と言う国のメッセージとして受け取って構わないでしょう。

免責

 扱うテーマが「年金」と言う制度と法律に関するものではあるのですが、概念的な部分を取り上げるため、どうしても厳密さや正確さに欠ける傾向にあります。ですから、何かの判断の参考にする場合や手続きを行う時は、必ず別の情報源でも確かめて下さい。このページの記事により損害が発生しても、補償は一切いたしませんので、あらかじめご了承ください。



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