■年金講座 平成16年改革
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年金は本当に破綻するの?〜若者のための年金講座

6.7. 平成16年改革

 現在の年金制度は、5年に1度、設計値の見直しをする事が法律で義務づけられていました(財政再計算)。平成16年も財政再計算の年だったのですが、少子化が深刻なほど進んでいるので、厚生労働省は単に財政再計算だけで済ますのではなく、制度そのものを見直す事にしました。
 これまで厚生労働省は、こっそりと財政再計算をして、こっそりと改革を行っていたのですが、平成16年改革では積極的に色々なデータを出し、国民の間で年金談義が活発になる様に仕向けました。厚生労働省のもくろみ通り、マスコミにバンバン年金不信が取り上げられる事となり、活発な議論がなされた末に平成16年改革が行われる事となりました。

 平成16年改革では、「持続可能な公的年金制度を構築し、信頼回復を図る」事がキーワードとなりました。

財政再計算をやめる

 どうして日本の年金制度が今の様な魑魅魍魎な状態になってしまったのかと言えば、5年に1度の財政再計算で設計値の見直しを行っていたからに他なりません。対策が後手に回ったり、将来の展望が甘かったりで、年金の財政は悪い方へと向かい続けました。また、コロコロと設計を変えるものだから、将来の年金がどうなっているのかを予想するのが難しくなってしまい、年金不信につながりました。
 現在の年金制度には、物価スライド(毎年、物価の変化に年金額を連動させる)や賃金スライド(5年に一度、現役世代の賃金の変化を年金額に連動させる)の仕組みがあるのですが、最近では、財政再計算のたびに年金の設計値が人口統計の変化に振り回される様になってしまっていたため、人口統計も年金額に自動で連動させる事にしました。

 まず、平均余命の延びで、自動的に年金額が変化する様にしました。(寿命が延びる→年金受給者が増える→年金額を減らす)(厳密な計算が難しいので、年-0.3%の年金額スライドに決め打ちにした)
 次いで、労働力人口の変化に応じて、自動的に年金額が変化する様にしました。(現役世代の人口が減る→保険料収入が減る→年金額を減らす)(年-0.6%の年金額スライドになると予想している)
 このふたつを合わせて、マクロ経済スライドと呼びます。
 また、賃金スライドも、5年に一度の財政再計算のついでにやっていたものを、毎年自動的に反映される様にしました。

 財政再計算をしなくても、設計値が全自動で変化する仕組みになり、財政再計算の必要がなくなりました。ただし、点検は必要なので、5年に一度「財政検証」をする事にしました。
 これまで財政再計算時についでにやっていたもろもろのプチ改革は、今後も財政検証時に行われる事になります。

保険料の上限を決める

 これまでは、保険給付に足りないからと言っては、保険料の値上げを繰り返してばかりでした。厚生年金を例にすると、保険給付は現役世代の所得の60%と決めてあり、それに合わせて保険料を見積もっていたのです。
 しかしこれでは、保険料はいつまでも上がり続けて、ひょっとしたら青天井なのではないかと言う不安が、国民の間に広がってしまいます。

 そこで、まず保険料を固定にしてしまう事にしました。もしもそれで給付のためのお金が足りなくなるなら、今度は保険料を変えずに給付を削る事になります。これまで「確定給付」にこだわり続けて来た公的年金が、平成16年改革でそのこだわりを捨て、「確定拠出」的な考え方が入る事になりました。

 保険料は、厚生年金が18.3%に、国民年金は16,900円に固定する事にしました。(政治的に決まってしまった根拠のない数字です。後に禍根を残さなければいいのですが…)(国民年金の保険料は、16,900円でずっと変わらないのではなく、賃金の変動に合わせて上下します。負担の重さとしては現在の16,900円分のまま固定になります)

 この18.3%や16,900円は、現在の保険料よりもかなり高いのですが、いきなり値上げすると日本経済への影響が大きいので、2017年にかけて毎年一定率で値上げして行く事になりました。

給付を下げる

 マクロ経済スライドの効果で、年金の給付水準は、徐々に下がって行く事になります。(金額が下がらない様にするために、物価や賃金が上昇した分だけマクロ経済スライドを行い、価値だけが下がる様にしています)
 しかし、際限なく給付が下がり続けると、国民の間に不安が広がるので、給付水準の下限を決める事にしました。

 他国では、年金の給付水準は40〜50%程度(日本の60%は異常に高い)なので、そこから、50%なら国民も我慢出来るはずだと言う事で、50%を下限にする事にしました。
 50%まで下がったらマクロ経済スライドを停止する事を法律に明記して、歯止めにしました。
 厚生労働省は、二十数年後には少子高齢化がひと息つくだろう(少子化が続いて人口減少して行くものの、現役世代と老人世代の比率は一定になる)と見積もりました。その状態で保険料18.3%・給付50%にした場合に財政が安定する様に、今回の財政再計算を行いました。

 厚生労働省の少子化予測が大幅に外れたとしても「法律を改正しない限りは50%を割り込む事は絶対にない」と厚生労働省は主張していますが、逆に言えば、法律を改正すればこの条件を外す事が出来ます。
 どうも、予想が外れた時にどうするかは「その時になったら考える」と言う事になっている様です。

国庫負担を増やす

 保険料を18.3%と16,900円に上げ、給付を今の5/6に切り下げたとしても、まだまだお金が足りません。そこで、年金に対して行われている国庫負担を増やす事にしました。
 現在、厚生年金の「国民年金相当分」と、国民年金に対して、1/3の国庫負担が行われています。これを1/2に増やします。
 ただし、財源の調達方法は、まだ決まっていません。
(定率減税の廃止や控除の縮小では足りないので、多分消費税が上がる事になるでしょう)

積立金を取り崩す

 それでもまだお金が足りないので、積立金を取り崩す事にしました。

 今までは未来永劫財政が均衡しなければならないと決めて(永久均衡方式)、保険料で足りない分は全て積立金の利子だけでまかなおうとしていました。そのために、給付に必要な額の6〜7年分の積立金を常に確保しておかなければなりませんでした。
 それを、向こう100年間の財政が均衡すればよいと言う事にして(有限均衡方式)、天変事変があった時に耐えられるだけの積立金(給付の1年分)だけを持っていればいい事にし、残りを100年かけて使ってしまう事にしました。

One Point

「確定給付をやめる」「年金を減らす」と言う、厚生労働省にとってはこれまでの設計思想を変える様な大英断な改革となりましたが、それでも現行制度をいじったに過ぎず、根本的解決にはなっていません。

免責

 扱うテーマが「年金」と言う制度と法律に関するものではあるのですが、概念的な部分を取り上げるため、どうしても厳密さや正確さに欠ける傾向にあります。ですから、何かの判断の参考にする場合や手続きを行う時は、必ず別の情報源でも確かめて下さい。このページの記事により損害が発生しても、補償は一切いたしませんので、あらかじめご了承ください。



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