■年金講座 海外の年金改革
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年金は本当に破綻するの?〜若者のための年金講座

6.6. 海外の年金改革

 日本だけでなく諸外国でも、年金不信が問題になっています。では、海外ではどの様にその不信を取り除こうとしているのでしょうか?

アメリカとイギリスは、他国とは事情が違う

 アメリカは、子供を育てながら勤め続ける人がとても多く、また、移民が続々と入って来ては子供を産んでいます。そのため、この国には少子化問題はありません。
 その上、他国と戦争をする事によって、常に経済を絶好調に保つと言う政策を取っています。
 そのために、国民の間には将来に対する不安がありません。戦後ベビーブーマーの世代がそろそろ年金受給者となるので、政府は年金改革が必要だと考えているのですが、しかし肝心の国民の方が、年金に感心を示さないのです。

 イギリスは、サッチャー政権時代に大胆な年金改革を行いました。給付を思い切り下げる事によって、財政危機を回避しました。そのため、この国には年金問題はありません。
 所が、あまりにも給付レベルを下げすぎたために、現在では老人の1/3が生活保護を受ける事態となってしまいました。
 ですから、この国の年金制度は、反面教師になりこそすれ、全く参考にする事が出来ません。
 日本もこのまま年金を払わない人が増え続ければ、(イギリスとは原因が違うものの)イギリスの様に多くの老人が生活保護を受ける、大変高コストな社会になってしまうかも知れません。

スウェーデン方式(みなし拠出建て年金)

 アメリカ・イギリス以外の西洋各国は、スウェーデン方式か、それに近い方式で、年金不信を解決しようとしています。学会等では、このスウェーデン方式が年金不信を解消する唯一の方法だと言われている様です。

 スウェーデンの年金は賦課方式です。(賦課方式 [ふかほうしき] =「現役世代が払った保険料は、そのまま高齢者の年金支給に使われる。将来の自分の年金の原資になる訳ではない」と言う方式。現在の日本の年金も賦課方式です)
 所が、見かけ上はあたかも積立方式であるかの様にしてしまうのが、スウェーデン方式のミソです。

 スウェーデンでは国民ひとりひとりが、年金口座と呼ばれる口座を持ちます。この口座には、払った保険料とその利子が貯まって行きます。
 これだとまるで積立方式なのですが、しかし、スウェーデンの年金は賦課方式です。実は、この口座には実際にお金が貯まっている訳ではなく、口座の金額は架空のものなのです。
 たとえ架空口座であっても、自分の年金はこれだけ貯まったと言うのが、いつでも、具体的な金額として、見る事が出来ます。ちゃんと貯まっている事が実感出来るので、国民の間には年金不信がありません。

 そして、年金の受給開始年齢は各自で自由に決める事が出来ます。年金額は、受給開始年齢と、受給開始時の口座残高で決まり、死ぬまでその金額で年金をもらう事が出来ます。
 頑張って働いて口座にたくさん貯まった人は、早めにリタイアして悠々自適な生活が出来ます。口座の金額が心細い人は、頑張って保険料を払い続ける事が出来ます。
 政府が年金支給開始年齢を決めて、国民がそれに振り回されるなんて事がありません。

スウェーデン方式は万能なのか?

 口座につく架空利子は、賃金上昇率の数字を用いて計算したものです。利率に賃金上昇率を使うと言う事は、保険料率に変化がないのであれば、
昔の給料×保険料率+その利子=現在の給料×保険料率
となるため、遠い昔に払った保険料も、価値が目減りする事なく口座に確保されて行きます。
 そして
年金額=支給開始時の口座残高÷支給開始年齢の平均余命
なので、人並みに生きるのであれば絶対に元本割れする事はありません。

 しかし実際には、口座にお金が蓄えられている訳ではありません。賦課方式なので、年金の支給に必要なお金は、現役世代が払った保険料によってまかなわれます。口座残高をそのまま年金支給額とするためには、現役世代と老人世代の比率に変化があってはならないのです。
 実際にはスウェーデンは、出生率が1.7程度で、徐々に人口が減っています。そのためスウェーデンの年金制度は日本の年金制度同様に、賦課方式であるにもかかわらず大量の積立金を持ち、その積立金の運用益で財源の不足を補う設計となっています。もしも想定以上に少子化が進んでしまうと、その時は年金の支給額を減らさなければなりません。

 見かけ上は積立方式で、保険料を払う側にとっては安心感があるのですが、実質は賦課方式には違いはないので、少子高齢化に弱いと言う弱点をそのまま抱えている事になります。ですから、猛スピードで高齢化している日本にそのままスウェーデン方式を採用するのは無理でしょう。
 しかし、今まで払った保険料が目に見えると言う安心感は、何にも変えがたいものがあります。また、口座のつけ方、口座金額と給付の関係、財源の確保の方法など、アレンジする余地は色々あるでしょう。

One Point

 厚生労働省は、スウェーデン方式をヒントに、保険料が貯まって行く実感が得られれば年金不信が解消されて行くだろうと考えて、2008年から、各自の「年金ポイント」を国民全員に毎年通知する事を決めました。

免責

 扱うテーマが「年金」と言う制度と法律に関するものではあるのですが、概念的な部分を取り上げるため、どうしても厳密さや正確さに欠ける傾向にあります。ですから、何かの判断の参考にする場合や手続きを行う時は、必ず別の情報源でも確かめて下さい。このページの記事により損害が発生しても、補償は一切いたしませんので、あらかじめご了承ください。



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