■年金講座 年金一元化
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年金は本当に破綻するの?〜若者のための年金講座

6.5. 年金一元化

 今の日本は、職業や身分によって加入する年金制度が変わってきます。それぞれの制度はそれぞれに異なった歴史を辿って現在に至っていて、それぞれの制度で保険料や給付に違いがあります。
 ひとつの職業で人生を全うする人が大多数だった昔の日本では、年金制度が職業によって別れていても不都合はなかったのですが、現在ではその様な人はごく一部の恵まれた人だけになっていて、多くの人が各制度を渡り歩くのが普通になってしまいました。

 また、国民年金は自営業者が加入するための制度のはずなのですが、それに反して、雇われている人(しかも給料の少ない人達)が多数加入しているのが現状です。

 制度体系や設計思想と現状との間のズレが激しくなって来ているので、あちこちで矛盾が出てしまい、それが不公平感につながっています。
 そこで「いっそ、国民皆が区別なく同じ制度に加入した方が、矛盾も不公平感もなくなり、スッキリするのではないか?」と言う考え方が出て来ました。これが年金一元化論です。

 まず、厚生年金と共済年金を一元化する事が検討されています。
 昭和61年改革の時に、共済年金は大幅な改革が行われ、現在では厚生年金と同じ仕組みの上に共済年金の独自給付を上乗せするスタイルに落ち着いています。ですから、上乗せ給付の部分だけを切り離して別の制度を作れば、共済年金を厚生年金化するのは簡単でしょう。

 しかし、厚生年金と共済年金の一元化だけでは、ほとんど何の問題も解決されません。(制度がひとつ少なくなる分だけ、ちょっとだけスッキリする)
 厚生年金と共済年金だけではなく、国民年金も含めて、日本にある全ての制度をひとつにしてしまうべきだと言う声が強く上がっています。

 全ての年金制度を一元化すると言う事は、今まで国民年金オンリーだった人達(第1号被保険者や第3号被保険者)も、厚生年金に加入させてしまおうと言う事になります。
 国民全員を、所得に応じて保険料を払い、払った保険料に見合った保険金(年金)をもらうスタイルにしてしまおうと言う事です。
 これなら「たまたま就職した会社が厚生年金に入っていなかった」などの運によって年金給付に差が出たり、「アルバイトと言う就業形態を選んでいたら、厚生年金と縁がなかった」などの生き方によって年金給付に差が出たりと言った事は起こらなくなります。日本国民である限りは、あくまでも現役時代の収入に見合った年金がもらえる様になるのです。

 しかし、厚生労働省はこの改革案をかたくなに拒否をしています。
 理由は、自営業などの人達の所得を正確に把握する事が出来ないので、勤め人達との間で不公平が生じてしまうから、と言う事です。
 しかし、例えば税務署の持っているデータを見せてもらう事が出来れば、完璧な所得の把握は無理だとしても、ある程度の所得の把握は出来るはずです。それに、自営業の場合は自己申告で保険料を払って年金をもらうと言う方式を採用してもいいのではないかと思います。

 政府が運営している保険の中に、すでに自己申告制を採用している制度がひとつあります。労災保険の特別加入がそれです。
 労災保険は、人を雇う際には必ず入らなければならない強制保険です。保険料は雇われている人の給料に比例します(ただし、100%会社負担)。この保険、加入出来るのは会社に使われている人だけです。個人経営の会社の社長は、社員を使う立場なので、加入する事は出来ません。しかし、個人経営の小さな会社になると、ほとんど例外なく社長さんは社員と一緒になって現場で働いています。そんな社長さん達の労災をカバーするために、特別に労災保険に加入させてあげる制度が、労災保険の特別加入なのです。
 社長には、給料と言う概念がありません。会社の利益のうち、自分の欲しい分だけを引き抜いて生活しています。しかし、労災保険に加入するには給料の額を決めなければなりません。そこで、労働基準監督署は社長が労災保険の特別加入する際に、給料に当たる額(保険料や保険金の計算に使う金額)を自己申告してもらっているのです。
 労災保険の特別加入は任意に加入するものなので、強制加入の年金制度と単純に比較する事は出来ませんが、自己申告制度を採用しているからと言って、特に不公平を指摘されたり不満の声が挙がっていたりはしていません。

 また、一元化に反対している政党や厚生労働省は、年金一元化を行って国民全員が所得比例年金になると、所得の低い人は年金額も本当に低くなってしまって、大変な事になるのではないかと言う事を指摘しています。
 しかしこれは、全てを所得比例年金に切り替えてしまった場合の話であって、一元化後でも今の様な2階建てな給付の姿を残しても別にいいはずです。

 ただし、国民全員に一律に、国民年金(=基礎年金)を支給しなければならない理由もないでしょう。現在の日本では、ちょっと贅沢が出来るだけの年金をもらっている人がいる一方で、わずかな年金しかもらえずに生活苦な人もいます。余裕のある人には国民年金の支給をやめて、その分を年金額が少ない人達の給付に回す様な改革をすれば、年金に対する不安が減る事でしょう。

 この最低保障年金と言う考え方は、スウェーデンを始め、色々な国で採用されています。
 この、国民年金を最低保障年金に切り替える改革案は、年金一元化とワンセットで考えられている改革案です。年金一元化をして国民全員が所得比例年金(厚生年金)への加入となった時に、年金額がとても少なくなって困る人達を救済するために、今の国民年金を最低保障年金に変身させて存続させようと言うものです。

図:現在の一律な基礎年金を、最低比例年金に移行する。所得比例年金が多い人には最低保障年金を支給しない形になる。

 ただし、国民年金の最低保障年金化は、必ず年金一元化とワンセットでなければならないなんて事はありません。独立したひとつの改革案として考えてもいいのではないかと思います。

One Point

 最低保障年金は、将来の年金額が少なすぎたらどうしようと言う不安を解消しますが、一方で、現役時代はへらへら暮らしていても老後は安心と言う気持ちを産む原因になり、自助自立の精神が育ちにくくなると言う弊害があります。

免責

 扱うテーマが「年金」と言う制度と法律に関するものではあるのですが、概念的な部分を取り上げるため、どうしても厳密さや正確さに欠ける傾向にあります。ですから、何かの判断の参考にする場合や手続きを行う時は、必ず別の情報源でも確かめて下さい。このページの記事により損害が発生しても、補償は一切いたしませんので、あらかじめご了承ください。



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