■年金講座 空洞化対策
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年金は本当に破綻するの?〜若者のための年金講座

6.3. 空洞化対策

 厚生年金は、法人の会社なら必ず、個人経営の会社でも5人以上の所は加入しなければならない事になっています。しかし、実際には2割程度の会社が加入をしていなくて、厚生年金が空洞化しつつあると言われています。
 国民年金は、第1号被保険者(厚生年金加入者やその人に扶養されている妻以外の人)であれば自分で保険料を払わなければならないのですが、そのうちの実に1/3もの人が未納を決め込んでいて、国民年金の方は空洞化が決定的なものとなっています。

 多くの人が加入を免れ、保険料を払わないでいる状況を許し続けると、年金の財政に打撃を与えるばかりか、「入らないトク」と言う意識が広がってしまい、そのうち年金制度が維持出来なくなってしまいます。
 社会保険庁もこれはマズいと思い、この空洞化を何とかしようと動き出しています。

厚生年金

 厚生年金では、会社が保険料を滞納すると、社会保険事務所が厳しく取立を行います。その取立があまりに厳しすぎるので、時にはそれが原因で会社が倒産してしまう事もあるほどです。
 会社の保険料の滞納は、社員の責任ではありません。そのため滞納があったとしても、きちんと保険料が支払われていた場合と同じ扱いで、社会保険庁は年金の金額を計算して支払います。つまり、会社が滞納をすると、社会保険庁はその滞納分を被らなければならなくなってしまうのです。
 また、会社は社員から保険料の半額を預かってるのですから、それを滞納するとはけしからんと言う理屈もあります。そのために、社会保険事務所は滞納した会社に対して厳しく取立を行うのです。

 厚生年金の保険料は半額が会社の負担です。しかも、その負担は重いです。その上、一度厚生年金に加入してしまうと、社員がひとりもいなくなるか、会社がなくならない限りは、厚生年金から抜ける事は出来ません。さらに、滞納したら取り立てが厳しいとなると、経営に充分な自信がない会社でない限りは、どうしても厚生年金の加入を躊躇してしまう事になります。
 実際に、規模が小さな会社になればなるほど、厚生年金の加入率は低くなります。10人未満の会社となると、半分程度しか加入していません。

 会社が社会保険事務所に加入の届出をしない限りは、自動的に加入になったり強制的に加入させられたりと言った事はありません。そのために、この様な空洞化が広がってしまいました。
 社会保険事務所は一応、加入していないだろうと思われる会社をリストアップして、加入の説得を行っています。しかし、未加入の会社を見つけても強制加入させる事はしていません。「見つけ次第、強制加入」と言う事を行うと「たまたま社会保険事務所に見つかって、運が悪かった」「社会保険事務所が来なくて、ラッキー」と言う不公平が生じてしまうため、社会保険事務所は強制加入をためらって来たのです。
 しかしだからと言って、現に「正直に届け出て、バカを見た」と言う不公平が生じてしまっています。

 社会保険庁もいつまでもこの状態を放置するのはまずいだろうと言う認識を持つ様になり、どうやったら未加入の会社の全てを漏れなくリストアップ出来るのか、検討を始めました。未加入の会社を公平に一網打尽にする方法が見つかり次第、まずは20人以上の会社を強制加入させ、それが完了したら次は10人以上の会社を強制加入させるべく、計画を立てています。いずれは、未加入の会社がほとんどなくなる、そんな日が来るかも知れません。

 未加入の会社が多い状態を放置すれば、どうしても会社には加入するかどうかの選択の余地が生じてしまいます。ほとんど例外なく全ての会社が加入する状態になれば、会社の経費を考える時には最初から社会保険料を計算に入れるのが当たり前な社会となり、社員募集をする時の給料も、会社負担分の社会保険料が折り込み済みの額が相場になる事でしょう。

国民年金

 国民年金の第1号被保険者の場合は、自分で保険料を払いに行きます。滞納して、その結果として年金が減ってしまったりもらえなくなってしまうのも、それは本人の責任となります。
 自己責任がはっきりしている制度なので、社会保険事務所もこれまでは強制的な保険料の取り立てを行って来ませんでした。

 しかし、あまりにも空洞化が激しく、払わない人に対する不公平感も広がっているので、社会保険庁はとりあえず高額所得者(払えない人ではなく、払わない魂胆な人…確信犯な人達)に的を絞って、保険料の取り立てを行う方針を打ち立てました。
 まずは、未納している人のうち、誰が高額所得者なのかどうかを把握しなければなりません。そこで、市町村が持っている課税データを社会保険庁が閲覧出来る様に、法律を改めました。
 この取り組みがどれだけ効を奏すかは今後の推移を見守る事としましょう。しかし、高額所得者だけを狙い撃ちにする限り、取立は単なる見せしめにしかならず、空洞化を食い止める効果はほとんどないでしょう。もしかしたらいつの日か、保険料を家計から捻出する事が不可能ではない程度の所得の人達も、取立の対象になるかも知れません。

 保険料を払うかどうかが自己責任によるものである限り、社会保険庁が普通の人にまで広く取立を行うと、きっと強烈な反発に遭う事になるでしょう。
 取立は空洞化対策のひとつにはなるものの、これだけでは空洞化を解決する事は出来そうにありません。

 そうなると、やはり年金制度を理解してもらう啓蒙活動が大切になって来るのではないかと思います。
 どうして年金の保険料を払わなければならないのか、保険料を払わないでいるとどうなるのか、そう言う事をまだ学生のうちに教育して行かなければなりません。すでに大人になってしまった人達にも、マスコミや講演会や配付物など色々な機会を通して、理解を広げて行く必要があります。
 保険料を未納で済ます事によって抱え込むリスクがどれほど大きなものなのか、それを充分理解した上で、各自が自己責任で払うかどうかを判断できる様にして行かなければなりません。

One Point

 もしも厚生年金保険料の会社負担分をなくしてしまえば(100%を本人負担にすれば)厚生年金の空洞化問題はなくなるのではないかと言う議論があります。国民年金の方は、保険料方式をやめてしまえば(100%税方式にすれば)空洞化問題はなくなります。

免責

 扱うテーマが「年金」と言う制度と法律に関するものではあるのですが、概念的な部分を取り上げるため、どうしても厳密さや正確さに欠ける傾向にあります。ですから、何かの判断の参考にする場合や手続きを行う時は、必ず別の情報源でも確かめて下さい。このページの記事により損害が発生しても、補償は一切いたしませんので、あらかじめご了承ください。



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