■年金講座 「少子化を受け入れる」と言う選択肢
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年金は本当に破綻するの?〜若者のための年金講座

5.5.6. 「少子化を受け入れる」と言う選択肢

 これまで少子化については「絶対に避けなければならない大変な事」として書いて来ましたが(少子化阻止論)、一方で「少子化のどこが悪い」と言う意見が多いのも事実です。
 国民自らが、自分らしさ実現のために、生き方を選択した結果として少子化が起こってしまったのですから、その少子化を素直に受け入れると言う選択肢があってもいいのではないかと言う考え方があります。(少子化対応論)

 年金の財政が厳しさを増し、将来に不安が出てしまうのは、出生率がどんどんと低くなって行って、老人対現役の比率がどんどんと変化しているからに他なりません。しかし、たとえ少子化が改善される事がなくても、出生率の低下は行く所まで行って下落は止まるでしょう。やがて、老人対現役の比率の変化が止まる日が来ます。その止まった比率でやって行ける制度を設計すれば、日本の年金制度は(負担が重いかも知れないけど)将来の心配がない制度にする事が出来る訳です。
 厚生労働省は平成16年改革では、出生率は将来1.39人程度に落ち着くだろうと予測して、年金制度の設計をしました。最悪の場合でも1.12人で落ち着くだろうと予測しています。
 2004年の出生率がすでに1.28人なので、1.39人で設計された年金の財政を保つには、これからかなり努力をして少子化を阻止して行かなければなりません。しかし、少子化対策を放っておいても出生率が0人になると言う事はありえないでしょうし、おそらく1人前後で止まるのではないかと思います。現時点での最悪の予測である1.12人と言う数字を使って年金を始めとした国の色々な制度を設計しておけば、少子化を止める努力をしなくてもいいと言う事になります。

 少子化が進むと、日本の人口が減る事になります。人口が減ると言う事は、働き手が減ったり、買い手が減ったりすると言う事でもあります。日本の経済の規模が、どんどん小さくなって行く事になります。
 経済規模が小さくなると、日本の国際競争力も弱くなります。
 ぐるぐると勢いよく経済を回して成長させて行くのが資本主義の基本なので、勢いを失った経済ではどうしても景気がよくなりません。人口の減少よりも経済の縮小の方がスピードが早く、将来の私達は今よりも確実に何割か貧乏になるでしょう。

 この少子化に伴う問題を解決するために、まずは、労働市場に参加していない人達をいかにして引っ張り出そうかと言う事が考えられています。現在家庭に入っている人達に出来るだけ働きに出て来てもらう事によって、働き手(=買い手。お給料で物を買うので、働き手が増えると買い手が増える)が減るのを食い止めようと言うのです。
 今は60〜65歳でほとんどの人が現役を引退して隠居してしまいますが、体が動く間は働いてもらうべく、老人の事を考慮した職場環境や社会の整備を進めて行く必要があります。また、子育ての負担を軽くしたり、パートの待遇を良くしたり、税制や社会保険の制度を工夫して働き方の選択肢を増やしたりして、今まで働くのを躊躇していた人達がどんどん社会に出て来る様に仕向ける必要があるでしょう。
 しかし、いくら努力して労働力率を上げたとしても、分母となる人口そのものがどんどん少なくなって行くのですから、どうしても労働人口が減少に転じる時が来てしまいます。

 IT化がどんどん進めば、経済は物作り主体から情報産業主体に移行して行く事になり(経済のソフト化)、そうなると、産業革命で経済が劇的に変わった時と同じ様に一人当たりの稼ぎ出す能力が飛躍的に上がるので、IT革命を強力に推進して行けば人口減になっても経済の縮小を回避する事が出来るのではないかとも言われています。
 しかし、これを実現するためには、子供の教育レベルを極限まで上げて優秀な人材をたくさん育てなければなりません。
 産業革命では、それまで職人芸だった物作りが単純作業に置き換えられ、あらゆる人が労働に参加する事が出来る様になったのですが、IT革命では優秀な人しか労働に参加する事が出来ず、どうしても落ちこぼれる人達が出て来てしまいます。IT革命がもしも本当に経済に大革命を起こしたなら、一人当たりの稼働能力が上がるのは確かだけど、それはIT産業に参加出来る一部の人に限られると言う事であり、それは3割の成功者と7割の落後者に別れる社会になってしまう恐れがあると言う事でもあります。
 それよりも、第1次産業や第2次産業がなければ第3次産業は成り立たないと私は思うので、IT産業だけが突出して大きくなると言う事もないでしょう。IT革命にはあまり過大な期待を寄せない方がよいのではないかと思います。

 どちらにしろ、人口減少に伴って経済規模が縮小する事は、避けられそうにありません。
 各人の所得も減るので、今の様に好きな物を好きな様に買う事は出来なくなるでしょう。
 しかし、必要な物を必要なだけしか作らなくなるし(無理矢理買ってもらうと言う事がなくなる)、人口も減る(競走相手が減る)ので、今の様な厳しい競争は段々と落ち着いて行くでしょう。
 物質的、金銭的には貧しくなるものの、まったりとした時間が流れる様になり、今とは違った価値観の元で幸せを感じる様になる…そう言う世の中になるのもいいではないかと、積極的に少子化を選択すべきだと言う人達もいる様です。

One Point

 少子化を避けるにしろ、少子化を受け入れるにしろ、今とは全く違った別の社会になるのではないでしょうか。今のままの社会が今後も続く事はないと言う事です。

免責

 扱うテーマが「年金」と言う制度と法律に関するものではあるのですが、概念的な部分を取り上げるため、どうしても厳密さや正確さに欠ける傾向にあります。ですから、何かの判断の参考にする場合や手続きを行う時は、必ず別の情報源でも確かめて下さい。このページの記事により損害が発生しても、補償は一切いたしませんので、あらかじめご了承ください。



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