■年金講座 少子化‐父性の欠如
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年金は本当に破綻するの?〜若者のための年金講座

5.5.4. 少子化‐父性の欠如

 明治より以前の日本では、15歳や17歳で結婚して所帯を持つのはごく普通の事でした。
 時代劇な大河ドラマを見ていると「こんなガキんちょが元服して嫁までもらって」と、ついつい思ってしまいます。でも、当時の15歳は、今の15歳よりもずっと大人だったはずです。もしかしたら今の30歳よりも大人だったかも知れません。
 生きて行くだけでギリギリな厳しい環境の中、隣近所の色々な世代の人達にもまれながら育った子供達は、早い時期からどんどんと大人びて行き、たった15歳でもそれなりの立ち居振る舞いになってしまっていた事でしょう。

 現在ではよく「子供が子供を産む」と言われます。成人して結婚しても、精神的にはまだまだ子供で、そんな状態で子供を産み育てるので、ノイローゼや虐待などの悲劇が後を断たないのだと言うのです。悲劇的結末にならなくとも、育て方がわからないまま子供が育ち、その子供もよくわかんないうちに体だけが大きくなってしまい、成人して子供を産みます。その悪循環が「子供が子供を産む」状況をどんどん深刻なものにしてしまっています。

 子供が健全に育つには、二つの要素が必要だと言われています。
 子供を保護する役割の「母性」と、子供の自立をうながす役割の「父性」です。
(便宜上「母性」「父性」と言う言葉が使われていますが、決して「母親=母性」「父親=父性」ではないので注意して下さい)
 最近の日本は母性ばかりが過剰に与えられる傾向にあります。母親が必要以上に子供を甘やかす傾向が強くなっているのはもちろんなのですが、父親が育児参加すればその父親も子供を猫っ可愛がりしてしまい、母性を与えてしまいます。
 そして、父親も母親も、子供と対決するのが怖くて、子供に父性を与えようとはしません。

 父性とは子供に対外交渉力をつけさせるための能力の事を言います。人間は他の動物と違って、言葉を用いてコミュニケーションを図ります。共通の言葉を使っている限りは、初対面の相手であっても意志の疎通が出来るのが人間の一大特徴です。
 見ず知らずの人と交渉を行わないと、暮らして行けないのが人間の社会です。自分の思い通りにならない事もいっぱいあるでしょう。相手を納得させるには技術も必要です。「譲れる事と譲れない事とを仕分けする」「思い通りに出来る事と出来ない事があるのを理解する」「どうにもならない事は我慢する」そう言った事を身につけてからでないと、人は社会に出て行く事が出来ないのです。社会に出る以前〜家庭内や顔見知りだらけの地域内で、その訓練を行う(社会化させる)のが父性の役割なのです。

 日本人男性は、古来からこの父性の性格が弱かった様です。父親の父性が足りない分は、地域住民みんなで父性を補っていました。
 明治に入り資本主義社会となり、地域中心の社会が崩壊し、会社中心の社会に変化して行きました。明治政府が家父長制を基礎とした統治を行ったため、各家庭では父親が権威を持って子供に当たったので、しばらくの間は何とか持ちこたえました。しかし、戦後になると家父長制は廃止され、世の中もどんどん会社中心の社会の性格が濃くなって行きました。そのために、子供達の周囲から父性の役割を担う人がいなくなってしまったのです。
 誰からも父性を与えられないまま子供が育つ様になってしまったため、社会化が不充分な大人がどんどん増えて「子供が子供を産む」状況となってしまい、悪循環に陥ってしまった結果として、やたらとキレやすい子供がたくさん育ったり、学級崩壊する様になったり、ニートがどんどん増えて行ったりする様になってしまいました。
 自分が社会化出来ていない事を何となく自覚しているがために、自分が子供を持つのは無理だと考える様になり、結婚や出産をためらう人達が、とても多いのではないかと思います。

 だったらどうしたらいいのかと言う話になると、勢い「父権の復権だ」との声が響いて来るのですが、社会化出来ていない大人が現状のまま権威を得た所で、自分のわがままを通すばかりで父性の役割は担えないでしょう(元々、家父長制は日本の伝統でもないのだし)。自分の生き方がわかっていない人が、子供に生き方を示す事は出来ません。
 何も父親だけが父性の担い手ではないのですから、父親の父性が足りない分は母親が、それでも不足するなら地域や学校が父性を担って行けばいいのではないでしょうか?
 現在父親の人達も、積極的に男親同士で近所つき合いをする様にして、父性について学んだり、かつての地域社会の代わりとなるコミュニティを形作ったりして、自分の子や地域の子に父性を与えられる様になって行くべきであると言われています。
 かなり根が深くて難しくて、解決にはとても時間がかかる問題なのですが、できるだけたくさんの機会を利用して、子供達に「生き方」を教えて行かなければならないのではないかと思います。

One Point

 人間だけではなく、犬や猫にも社会化と言うものがあります。幼いうちに親兄弟から引き離して人間が育てると、いつまでも精神的には子供のまま、同類の犬猫に敵対心を持ってしまって上手く付きあえなくなり、最悪の場合は交尾もままならなくなります。

免責

 扱うテーマが「年金」と言う制度と法律に関するものではあるのですが、概念的な部分を取り上げるため、どうしても厳密さや正確さに欠ける傾向にあります。ですから、何かの判断の参考にする場合や手続きを行う時は、必ず別の情報源でも確かめて下さい。このページの記事により損害が発生しても、補償は一切いたしませんので、あらかじめご了承ください。



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