年金批判でよく言われるのが「今の老人は少ししか保険料を払っていなかったのに、たくさん年金をもらっている。不公平だ」と言うものです。
実際の所、戦後仕切り直し厚生年金も、国民年金も、必要となる保険料よりも格安の保険料でスタートしました。どちらの制度も、徐々に保険料率を上げて行き、やがては積立の不足を補える少々高めの料率で値上げを止める段取りとなり、その値上げは現在でも続いています。(一応、2027年には値上げが止まる予定です)
ですから、過去になればなるほど、厚生年金も国民年金も保険料が安かったのは事実です。
では、実際にどの位の格差があったのでしょうか?
厚生年金に20歳から60歳になるまで40年間加入したとして、その間の保険料率の平均と、年金支給の料率を元にして、男性の場合のそれぞれの年齢の損益分岐点を計算してみました。
2005年齢 | 生年月日 | 保険料率平均 | 支給開始時定額部分 | 支給開始時比例部分 | 損益分岐点 | 損益分岐年齢 |
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80歳 | T15/1/1 | 6.12% | 861,000円 | 1.000% | 3年9月 | 63歳9月 |
70歳 | S10/1/1 | 8.02% | 1,059,700円 | 0.891% | 5年4月 | 65歳4月 |
60歳 | S20/1/1 | 11.55% | 783,100円 | 0.772% | 9年5月 | 70歳9月 |
50歳 | S30/1/1 | 15.04% | 728,600円 | 0.653% | 14年6月 | 77歳12月 |
40歳 | S40/1/1 | 18.47% | 662,400円 | 0.594% | 20年3月 | 85歳3月 |
今年80歳の人と40歳の人とでは、保険料では3倍、損益では実に5.5倍の格差がある事になります。
いくら昔の人より今の人の方が平均寿命が長いとは言え、今年40歳の人は85歳まで生きなければ元が取れないのに対し、今年80歳の人は64歳で元が取れてしまっていたのでは、差がありすぎます。
戦争直後の日本は疲弊し切っていて、餓死者も大勢出るほどの貧乏でした。
そんな貧乏な中、年金の保険料の負担はきつく、「今はこれだけの負担しか出来ないけれど、きっと豊かになるであろう将来だったら、多めに払えるに違いない」と思ってしまったのは、仕方がないでしょう。
これがいわゆる「後世へのつけ回し」と言うものです。
つけ回し自体が悪い事ではありません。将来が豊かになる確証があるのなら、貧乏な時に無理して自滅するよりいいでしょう。しかし、つけ回しは経済が勢いよく成長してこそ出来る事なのです。ゼロ成長な現代では、この理屈は通りません。
ですから、平成16年改革では、ゼロ成長が続いても安定した収支になる様に、給付減と保険料UPの、かなり痛みを伴う改革をする事となりました。
私達現役世代が老人世代に対して「不公平だ」と言う事自体は間違っていないのですが、一方私達は本当に割を食う一方なのでしょうか?
年金の保険料は、徐々に値上げをして行って高止まる設計になっています。しかしここの所、日本の景気がとても悪かったために、1998年からの6年間、政策的に保険料の値上げが止められました。
そんな設計外の事をやってしまったために、年金の財政は正直に打撃を受ける事となり、厚生年金は2001年から、国民年金も2002年から、単年度赤字に転落してしまいました。大変に大きなツケを、後世に回してしまったのです。
また、少子高齢化が今後もどんどん進んで行く事も確かなので、私達現役世代が高齢者になった頃には、きっとその時代の現役世代のお荷物になってしまっているでしょう。
年金の基本は「世代間扶助」です。その考え方を受け入れずに損得をだけで考えている限りは、いつの時代になっても世代間で「不公平だ」と言い続ける事になるのではないでしょうか?
それを理解した上で、世代間格差がこれ以上広がらない様に対策を取る事が、必要なのではないかと思います。
後世へのつけ回しをしているのは年金だけではありません。税金の世界でも、ものすごい規模のつけ回しが行われています。年金よりも事態は深刻なのに改善の気配はなく、もしかしたら我々日本人はとてつもない爆弾を抱えているのかも知れません。
扱うテーマが「年金」と言う制度と法律に関するものではあるのですが、概念的な部分を取り上げるため、どうしても厳密さや正確さに欠ける傾向にあります。ですから、何かの判断の参考にする場合や手続きを行う時は、必ず別の情報源でも確かめて下さい。このページの記事により損害が発生しても、補償は一切いたしませんので、あらかじめご了承ください。