現在は、厚生年金に加入している会社に勤めている人のうち、週30時間以上働いている人は厚生年金に入らなければなりません。加入に関しては、数日や数か月限りの臨時雇いでない限り、正社員かどうかの区別をしない事になっています。
実際には、アルバイトには腰かけ的な副業のイメージがあるために、アルバイトを厚生年金に加入させる会社は珍しいのですが、パートに関してはずっと働いてもらうイメージがあるために、ほとんどの会社がパートをきちんと厚生年金に加入させています。
パートを厚生年金に加入させると、会社としてはパートのうま味がなくなるために(保険料の半額が会社負担なので)、パートには週28時間程度で働いてもらって厚生年金には入れない会社が、非常に多く存在します。
厚生労働省は、この週30時間の加入条件を、週20時間に引き下げようと考えています。
平成16年改革でもこの議論がされましたが、スーパー業界の猛烈な反発に合い、今回はこの改革を見送る事になりました。
厚生省と労働省が合併し、社会保険(厚生年金+健康保険)と労働保険(労災保険+雇用保険)をひとつの省で扱う事になりました。しかし現在でも、社会保険と労働保険は関連がない別のものとして扱われています。受け付けるお役所も、届け出る会社も、二度手間を我慢している状態が続いているのです。
それでもゆくゆくは、社会保険と労働保険をひとつのものにする計画が進んでいます。しかし、社会保険では加入条件が30時間以上であるのに対し、雇用保険は20時間以上なので、加入する人の範囲に食い違いがあります。この状態のままでふたつの制度をひとつにまとめても、事務処理の手間はほとんど軽くなりません。
そこで、社会保険の条件を雇用保険に合わせてしまおうと言う発想につながりました。
一方で、国にはワークシェアリングを推進すると言う大方針があります。
パートがこれだけ安くこき使われているのは、世界的に見ても日本だけです。それを是正するためにパートの地位を上げて行き、ゆくゆくは「同一労働・同一賃金」が徹底される世の中にしたいと、国は考えています。
同一労働・同一賃金があまねく行き渡る様になると、例えば
この様に、日本は各人の能力や事情に応じた多種多様な働き方・生き方が出来る社会に生まれ変わります。
今後、少子化で日本の労働力人口はどんどん減って行きます。今まで働くのをあきらめていた人達にも、どんどん社会に出て来てもらわなければなりません。そのためにも、同一労働・同一賃金を実現させて、ワークシェアリングを進めなければならないのです。
社会保険の20時間化は、「企業に『パートはお買い得』と言う意識を改めてもらおう」と言う国の強いメッセージと受け取って構わないでしょう。
現在、多くの人が週20時間〜30時間で働いています。その人達に新たに厚生年金保険料を払ってもらう事になるので、世間では「保険料収入大幅UP」「大網をかけて小魚も一網打尽」「濡れ手に粟」とか色々言われています。
実際の所はどうなのでしょうか? 試しに計算してみましょう。
サンプルになってもらうのは、共働きの小鉄さんと多摩さんです。小鉄さんは正社員で月収28万円、多摩さんはパートで、時給700円×週21時間で月6万円を稼いでいます。
条件 | 月給 | 保険料 | 年金の増加額 | 損益分岐点 | |
---|---|---|---|---|---|
改革前 | 夫 | 28万円 | 51,240円 | 4,037円 | 12年9か月 |
改革後 | 夫 | 28万円 | 51,240円 | 2,658円 | -- |
妻 | 6万円 | 10,980円 | 1,653円 | -- | |
合計 | -- | 62,220円 | 4,311円 | 14年6か月 |
多摩さんも厚生年金に入る事により年金額が増えるのですが、その増え方は保険料の増え方よりも少なく、小鉄さん一家はこの改革で少し割を食う(国の視点では、ちょっと儲かる)事になります。
年金だけなら少し損する程度ですが、厚生年金と健康保険はワンセットになっています。多摩さんは改革前は小鉄さんの扶養の健康保険証を持っていたのに、改革後は自分で健康保険料を払わなければならなくなります。健康保険に関しては、受けられる給付が同じなのに、負担が丸ごと増えてしまうのです。
一方、同じ月収6万円でも単身者の場合は、わずか5,490円の天引きで国民年金保険料16,900円を払わないで済むばかりか、年金も手厚くなり(損益分岐点は6年8か月)、国民健康保険から健康保険に移るので(単身でこの所得なら、多分安くなる)、かなりお得になります。他人から「ちょっとそれは不公平過ぎるのでは?」と言われてしまうほどの状態になります。
社会保険の20時間化で国は濡れ手に粟なのかと言うと、厚生年金に関しては支出もそれ相応に増えるので財政が良くなる事はありませんが、健康保険の方は確かに濡れ手に粟の様です。
非正規社員の賃金を上げると言う事は、正社員の賃金を下げる事につながります。そのため正社員達の猛烈な反発に合い、同一労働・同一賃金の実現は不可能に思えます。しかし国はすでにその方向に舵を切っているので、数十年後には新しい常識として日本に定着しているでしょう。
そのため政府は、社会保険の20時間化をあきらめる事はありません。2009年に再度検討する事になっています。
扱うテーマが「年金」と言う制度と法律に関するものではあるのですが、概念的な部分を取り上げるため、どうしても厳密さや正確さに欠ける傾向にあります。ですから、何かの判断の参考にする場合や手続きを行う時は、必ず別の情報源でも確かめて下さい。このページの記事により損害が発生しても、補償は一切いたしませんので、あらかじめご了承ください。