厚生年金は国民年金と比べると複雑な計算を行って年金額を算出しているので、損得勘定をするにも国民年金の様に一筋縄では行きません。
厚生年金の保険料は、次の式で算出され、保険料を会社と本人とで半額ずつ負担します。
保険料=賃金×料率
(月々の賃金を届け出て記録を管理するだけの事務処理能力が会社にも社会保険庁にもないので、実際には等級制を採用していて、保険料は上の式とは少しズレます。この等級制度はとてもテクニカルな手法で運用されているので、興味のある方は調べてみて下さい)
月々の賃金だけではなく、ボーナスが支払われた時にも、同じこの式を使って保険料が掛かって来ます。
高度成長期に大盤振る舞いをしてしまったツケとして、現在も厚生年金の保険料率は年々値上げが続いています。
平成16年改革では、厚生年金保険料率は2017年までに18.3%まで上げ、それ以後は値上げを止める事が決められました。
今回の計算では、とりあえず「18.3%」の数字を使う事にします。
この厚生年金の保険料には、本人の国民年金保険料を含まれています。また、妻帯者の場合は、妻(第3号被保険者)の国民年金保険料も含まれています。
厚生年金の老齢年金(老齢厚生年金)は、次の計算式で求められます。
平均標準報酬額×0.5481%×支払月数
平成16年改革では「所得代替率が現在60%なのを、50%に切り下げる」事が決まり、その切り下げの仕組みが年金の計算式に組み込まれました。ですから、将来の年金額は今の5/6になってしまう勘定になります。
そこで今回の計算には、支給率は0.4567%(=0.5481%×5/6)の数字を使う事にします。
厚生年金の年金額を計算するためには、その計算に先立って「平均標準報酬額」を必ず求めなければなりません。
では、この「平均標準報酬額」とは何でしょうか?
これは、保険料を払って来た全期間の、賃金の平均の数字です(ボーナスは月割にして算入)。ただし、記録されている賃金額をそのまま使って計算するのではなく、当時の賃金額を現在の物価や賃金水準に見合った額に変換をしてから平均を計算します。この計算、正確な記録に基づいて力技で行わなければならず、また、変換表も毎年の賃金水準や物価水準の変化に応じて書き換えられるので、この「平均標準報酬額」を算出すのはとても難しいのです。
これが原因で、現在の日本ではどこの誰も「あなたの厚生年金はこの位になるんですよ」と言ってくれないのです。
だからと言って「計算不能です」と言ってしまうと、元も子もないので、ここではこの「平均標準報酬額」を単純化してみる事にします。
今回計算したいのは、今日払った保険料が、将来一体いくらになって返って来るのかと言う事です。
将来と言っても、将来の貨幣価値がどうなっているのかわからないので、取りあえずここでは、現在の貨幣価値で計算する事にします。つまりそれは「今月払った保険料は、来月から年金をもらうとしたらいくらになるのか」を考える事になります。
「払うのが今日でもらうのが明日」に話を単純化するので、過去や未来の賃金水準や物価水準の変化を一切考慮しなくてもいい事になります。
そうなると「平均標準報酬額」は単純に「保険料支払をした全期間に受けた報酬の総額÷支払月数」になります。
これを、年金額の計算式に当てはめてみます。
老齢厚生年金額=平均標準報酬額×0.4567%×支払月数
=報酬総額÷支払月数×0.4567%×支払月数
=報酬総額×0.4567%
この式から、厚生年金の年金額は、報酬総額に比例している事がわかります。
所で、保険料は次の式なので、
保険料=報酬額×18.3%
この式を先の年金額の式に当てはめると、こうなります
老齢厚生年金額=報酬総額×0.4567%
=保険料総額÷18.3%×0.4567%
=保険料総額×2.5%
この式から、厚生年金の年金額は、保険料総額にも比例している事がわかります。
厚生年金の保険料には、国民年金の保険料が含まれている(妻帯者の場合は妻(第3号被保険者)の国民年金の保険料も含まれている)ので、損益分岐点を計算するには、この国民年金分も考慮に入れなければなりません。
ひと月保険料を払うと増える年金の増加額(年額)は、次の通りになります。
年金の増加額=保険料×2.5%+1,379円(+妻の1,379円)
現在の月収の平均値である28万円を使って、単身者の場合の損益を計算してみます。
条件 | 月給 | 保険料 | 年金の増加額 | 損益分岐点 |
---|---|---|---|---|
単身者 | 28万円 | 51,240円 | 2,658円 | 19年4か月 |
65歳から年金をもらい始めて84歳4か月になるまで頑張って生きれば、元が取れる事になります。
男性の65歳の平均余命(65歳の人が平均であと何年生きるのか)は18.0年なので、平均まで生きたとしても、男性の場合は何と元本割れしてしまう事になります。
(会社負担分の保険料を一切考慮せずに、本人負担分の保険料だけで損得を考えるなら、あらゆるケースで充分に元が取れます)
実を言うと、厚生年金には所得再分配機能があり、単身者か妻帯者か、月収が多いか少ないかで、この損益分岐点が大きく動いてしまうのです。
2005年9月からの保険料率は14.288%です。それを使うと年金額の式は
ひと月当たりの年金の増加額(年額)=天引きされた保険料の額×6.4%+1,379円(+妻の1,379円)
となります。厚生年金の保険料を月々払うと、年金額はこれだけづつ増えて行く事になります。
給与明細をもらった時には、この式の事を思い出して年金の増え具合を実感してみて下さい。
扱うテーマが「年金」と言う制度と法律に関するものではあるのですが、概念的な部分を取り上げるため、どうしても厳密さや正確さに欠ける傾向にあります。ですから、何かの判断の参考にする場合や手続きを行う時は、必ず別の情報源でも確かめて下さい。このページの記事により損害が発生しても、補償は一切いたしませんので、あらかじめご了承ください。