■年金講座 国民年金の破綻
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年金は本当に破綻するの?〜若者のための年金講座

3.9. 国民年金の破綻

 仕切り直しの厚生年金では、意図的に割安の保険料で制度をスタートさせて、徐々に保険料を上げて行く設計になりました。
 国民年金の方は、意図的ではなかったものの、割安の保険料で制度がスタートする事となりました。積立金の不足を埋めるために、5年毎の財政再計算のたびに保険料を値上げして行かなければならなくなってしまいました。

 しかし、1960〜70年代は、日本は高度成長まっただ中でした。その間、物価や所得がどんどんと上がって行き、放っておくと支給される年金の価値がどんどん下がって行ってしまうので、財政再計算のたびに給付の中身を手厚くしていく事となりました。
 厚生年金も国民年金も、どちらも積立方式を採用していたので、給付を手厚くするためには、それに応じて保険料を上げなければなりません。しかし、どちらの制度も、積立金の不足を埋めるために保険料の値上げを続けていたので、それ以上の値上げを国民に強いる訳には行きません。そのため、必要な保険料と実際に徴収する保険料との差を縮める事が出来なくなってしまったのです。

 厚生年金の方は、実際の保険料が必要な保険料の2〜3割減のレベルで推移した事と、戦前からの制度だったのでそれなりに積立金が貯まっていた事が幸いして、どうにかこうにか耐え抜く事が出来たのですが、国民年金の方は、制度スタート直後だった上に、実際の保険料が必要な額の半額にも満たない状態が続いてしまったために、積立金の不足がどんどん深刻になって行きました。
 そのため、1976年には国民年金の給付レベルを厚生年金に合わせる事をあきらめる事となりました。しかし、現に物価や所得が上がり続けているのですから、給付額を凍結する訳にも行きません。
 特例による老齢年金を受け取る人達が増え始め、1974年には物価スライド(物価変動を年金額に自動的に連動させる)がスタートし、支出は一気に増え始めました。
 そうなると収支はどんどん悪化する事になり、1980年代には単年度赤字になってしまったり、単年度の収支額が積立金の額を上回ってしまったりする様になりました。

 そしてさらに悪い事に、この頃、国民年金の加入者がどんどん減って行きました。それまでの日本では農業従事者が多かったのですが、高度成長を期に離農する人が相次ぎ、多くの人が勤め人となり、国民年金を離れて厚生年金に加入して行ったのです。
 保険料をいくら値上げしても、保険料を払う人自体がどんどん減っていたので、それがさらに財政を悪化させる原因となってしまいました。

 加入25年の正規の老齢年金受給者が出現する前からこの様な状態だったので、もし皆が老齢年金をもらい始めたら、制度が1年ともたない事は火を見るよりも明らかです。
 そこで、待ったなしの改革をする事となりました。

One Point

 給付で大判振る舞いする反面、徴収を抑えると言う当時の政治の産物が、非常に大きな負の遺産となって現代にのしかかる事となってしまいました。

免責

 扱うテーマが「年金」と言う制度と法律に関するものではあるのですが、概念的な部分を取り上げるため、どうしても厳密さや正確さに欠ける傾向にあります。ですから、何かの判断の参考にする場合や手続きを行う時は、必ず別の情報源でも確かめて下さい。このページの記事により損害が発生しても、補償は一切いたしませんので、あらかじめご了承ください。



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