厚生年金が再スタートし、サラリーマンにとっては老後の心配をしなくてもいい時代が到来しました。しかしそれは、農家や商店などの自営業の人達にとっては単なるひとごとでしかありませんでした。
高度成長の波が来て、国もどんどん豊かになって行く中、こと年金制度に関しては自営業者達は完全に取り残されてしまったのです。
そこで国は「国民皆年金」を合言葉に、自営業者達の年金制度を整備する事にしました。
最初は、厚生年金制度を拡張して自営業者部門を作るとか、厚生年金制度に自営業者達も加入させるとかの案が検討されたのですが、最終的には独立したひとつの制度を作る事になりました。
自営業者達の所得を把握するのは大変な手間がかかる上に、結局は正確に把握する事が出来ません。厚生年金の様な所得比例な保険料にするには、その辺の仕組みがよほどしっかりしていないと、とんでもない不公平な制度になりかねません。その部分に大いに不安があったので、厚生年金制度への自営業者の組み込みはあきらめ、定額保険料の年金制度を新たに作る事にしたのです。
これが国民年金となりました。
制度創設の目的が「国民皆年金」だったため、加入者に所得があるのか無業なのかの区別をしない事になりました。自営業者の妻も、家業を手伝っているのか専業主婦なのかを把握するのが難しいので、全員を加入者にする事にしました。そのため国民年金は、個人単位で加入する制度となりました。
一方、厚生年金の老齢年金には妻がいる場合の手当て(加給年金)があり、世帯単位の年金として機能していました。だからと言って個人単位で見た場合は、厚生年金加入者の妻は無年金である事には変わりありません。この人達も自営業者の妻同様に国民年金の加入者にする事が検討されたのですが、そうなると厚生年金の制度を大幅にいじらなければならなくなるので、それは断念されました。代わりに、任意で国民年金に加入出来る様にしました。
財政は「積立方式」「保険料方式」でした。制度スタート時にすでに老人や障害者になっていた人にも年金を払うために、その部分については税金による福祉システムが採用されました。
厚生年金には会社負担があって本人負担の保険料が安めだったのと、国民年金に加入する事になる人達には低所得者が多かったので、完全な保険料方式にはせず、1/3は税金でまかなう事になりました。
制度設計当時に計算した必要となる保険料は月128円でした。これを35歳以上は150円、35歳未満は100円の保険料に設定し、過不足がない様にしました。(各人の所得の把握は難しくても、年長者の方が所得が多いだろうと言う事で、年齢による区分をした。→後に廃止)
しかし、いざ制度をスタートさせてみると、その年にはすでに、必要となる保険料は180円になっていました。保険料はアナウンス通りに100円と150円のままでスタートしたので、その分だけ最初から積立金に穴が空く事になってしまいました。
それだけ先の見通しが甘々だったと言う事と、当時それだけ勢いよく物価が上がっていたと言う事なのでしょう。
こうして、最初からつまづいた形になってしまったものの、1961年に国民年金がスタートしました。
最低加入年数25年、支給開始年齢65歳と言うのは、現在と同じなのですが、年金額については25年加入の国民年金が20年加入の厚生年金と同じレベルになると言う、今では考えられないほどの高水準で設計されていました。
扱うテーマが「年金」と言う制度と法律に関するものではあるのですが、概念的な部分を取り上げるため、どうしても厳密さや正確さに欠ける傾向にあります。ですから、何かの判断の参考にする場合や手続きを行う時は、必ず別の情報源でも確かめて下さい。このページの記事により損害が発生しても、補償は一切いたしませんので、あらかじめご了承ください。