■年金講座 海外の年金改革
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年金は本当に破綻するの?〜若者のための年金講座

番外編 7

海外の年金改革

 日本だけでなく諸外国でも、国民の間での年金不信が問題になっています。では、海外ではどの様にその不信を取り除こうとしているのでしょうか?

アメリカとイギリスは、他国とは事情が違う

 まずはアメリカですが、この国は移民の国と言うだけあって、少子化が深刻ではありません。ですから高齢化もそんなに問題にはなっていません。
 その上、常に他国と戦争をする事によって経済を絶好調に保つ、と言う政策を取っています。
 そのために、国民の間には将来に対しての不安がなく、年金に対する関心はとても低いです。政府は年金改革が必要だと考えている様ですが、国民の側にその気持ちがありません。

 次いでイギリスですが、この国はサッチャー政権時代に年金の大改革を行っています。給付を思いきり切り下げる事によって財政危機を回避しました。
 所が、あまりにも年金給付を下げすぎたがために、現在は老人の1/3が生活保護を受ける社会になってしまいました。
 ですから、この国の年金制度は、反面教師になりこそすれ、全く参考にする事はできません。
 日本でも、年金を払わない人がこのまま増え続ければ、(イギリスとはその原因が違うものの)イギリスの様に老人の多くが生活保護を受ける(高コストな)社会になってしまうかも知れませんね。

スウェーデン方式

 アメリカ・イギリス以外のヨーロッパ各国は、スウェーデン方式か、それに近い方式により、年金不信を解決しようとしています。学会等では、このスウェーデン方式が年金不信を解消する唯一の方法だとも言われている様です。

 スウェーデンの年金は賦課方式です。(賦課方式 [ふかほうしき] =「今、私が払った保険料は、今、どこかの誰かの年金の支払に使われる。将来の自分の年金の原資になるわけではない」と言う方式。現在の日本の年金も賦課方式です)
 所が、見かけ上はあたかも積立方式であるかの様にしてしまうのが、スウェーデン方式のミソです。

 国民ひとりひとりが、年金口座と呼ばれる口座を持ちます。この口座には、払った保険料とその利子が貯まって行き、将来、老人になってから年金として引き出す事が出来ます。
 このままだと、まるで積立方式なのですが、しかし、スウェーデンの年金は賦課方式です。実は、この口座は実際にお金が貯まっているものではなく、架空のものなのです。
 架空の口座であっても、自分の年金はこれだけ貯まったと言うのが、具体的な金額となって見る事ができるので、それが年金不信の解消につながります。

 そして、好きな時から年金を受け始める事ができる(口座の金額ともらい始めの年齢で、年金額が決まる)と言うのも、特徴のひとつです。
 頑張って働いて口座にたくさん貯まった人は、早めにリタイアして悠々自適な生活が出来ます。口座の金額が心細い人は、頑張って保険料を払い続ける事ができます。
 政府が年金支給開始年齢を決めて、国民がそれに振り回されるなんて事がありません。

スウェーデン方式は万能なのか?

 口座に貯まった金額に応じて年金額が決まるシステムだと言う事は、将来、物価が上がって行った場合には口座の金額の価値が低くなってしまうと言う事にもなります。(これは、積立方式ならではの欠点です)
 しかし、そんな場合は支給率の数字を操作する事によって、この問題を解決する事ができます。ですから、この問題はそう大きな問題ではありません。(賦課方式だからこそ、こう言う事ができてしまいます)

 他に、何かこのスウェーデン方式に問題が隠れていないか、皆さんお気づきになりますか?
 架空口座であるにもかかわらず、利子がどんどん貯まって行くんです。実際にお金を市場で運用しているわけではないのに、利子がつくんです。(それって、ペーパー商法じゃん!)
 でも、どんどん経済が成長して行き、将来の人達が現在の人達よりも余裕で保険料を払える様になれば、口座につく架空利子分も、ちゃんと保険料から確保できる事になります。

 スウェーデンと言う国は、資源も人口も少なく、そのために人的資源をどう育てて有効に使って行けばいいのかと言う事に特化した社会になっています。優秀な人材を育てて、貿易で荒稼ぎする、そんな社会なので、景気が悪い時がありません。ですからこの方式を取っても、何の問題もないのです。

 もし、日本の様なゼロ成長だとかマイナス成長な状態が長く続いたとすると、スウェーデン方式でやって行けるのでしょうか?
 口座につく架空利子は、市場の実際の運用実績と同じ数字を使う事になっているので、架空利子が原因で財政破綻する事はそんなにないでしょう。でも、経済がマイナス成長だとマイナスの利子がつく事にもなりかねません。

 将来の年金支給額は、利子次第で決まる…まるで確定拠出年金みたいな感じになってしまいます。

厚生労働省の頭の中は?

 どれだけ自分の年金が貯まったのかを何らかの方法で知らせる事が、年金不信を解消する事になるんだと言う事は、厚生労働省も認識している様です。
 スウェーデン方式の様にそのものズバリの金額を示す事ができない代わりに、「ポイント制」と言う考え方を年金制度に持ち込んで、「あなたは今、○○ポイントです」と通知を始めるべく、現在整備が進んでいます。
 もちろん将来的には、スウェーデン方式に進むのも不可能ではないでしょう。

 もう一方の不信の原因である「制度間での不公平感」についても、厚生労働省は認識している様です。
 国会で盛んに議論された、国民年金の税方式化や全制度の統一など、仕組みが上手く作れるのなら移行してもよいと言う気持ちはある様です。

 しかし、これらの大きな改革は「2017年まではやらないよ」と厚生労働省は言っています。
 2017年とは、平成16年度改革で始まった保険料の値上げが終わる年です。つまりは「せっかく作った平成16年度改革を最後までやらせろ!」と言うのが厚生労働省の本音の様です。

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