■年金講座 平成16年の改革
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年金は本当に破綻するの?〜若者のための年金講座

番外編 6

平成16年の改革

 現在の年金制度では、5年に一度、設計値の見直しをする事になっています(財政再計算)。平成16年はこの財政再計算の年だったのですが、どんどん進む少子高齢化と相まって年金不信もふくらんで来ていたために、単に財政再計算をするだけではなく、制度そのものを見直す機運が高まりました。

 今回の改革で厚生労働省がキーワードにしたのは、次のふたつです。

  • 持続可能な公的年金制度を構築し、信頼回復を図る
  • 生き方、働き方の多様化に対応した公的年金制度

 今回のメルマガは、1番目の「持続可能な年金制度」での改革について見てみましょう。

財政再計算をやめる

 何が一体年金不信の元凶なのかと考えてみた所、5年に一度、設計をし直しているために、将来の年金がどうなっているのかが見えにくくなっているのではないかと言う事で、この財政再計算をやめてしまう事にしてしまいました。
 現在でも物価スライド(物価の変化で毎年自動的に年金額が変化する)や賃金スライド(5年に一度の財政再計算のついでに、現役世代の賃金の変化を年金額に反映させる)の仕組みがあったのですが、最近ではそれよりも、設計値は人口統計に振り回される様になって来ていたために、この人口統計からも自動的に年金額が変化する様な仕組みを組み入れて、財政再計算をしなくても済む様にしました。

 まずは、平均余命の延びで、自動的に年金額が変化する様にしました。(寿命が延びる→年金受給者が増える→年金額を減らす)(年-0.3%の年金額スライドに決定)
 次いで、労働力人口の変化に応じて、自動的に年金額が変化する様にしました。(現役世代の人口が減る→保険料収入が減る→年金額を減らす)(年-0.6%の年金額スライドの予定)
 このふたつを合わせて、マクロ経済スライドと呼びます。

 また、賃金スライドも、財政再計算時についでにやっていたものを、毎年自動的に反映される様にしました。

確定給付をやめる

 これまでの年金は、現役の賃金の60%になる様に年金額を決め、それに従って財政再計算をして、必要な積立金や保険料を見積もっていました。
 しかし、マクロ経済スライドを導入する事となったため、この最も基本的な「確定給付」と言う方針を捨てる事にしたのです。まず保険料を固定してしまい、それに従って年金を支給すると言う「確定拠出」の考え方に近づきました。
 これで「保険料が青天井になるのではないか」と言う国民の不安に、歯止めをかけようとしています。

 厚生労働省は、二十数年後には少子高齢化がひと息つくだろうと、その時には年金額は現役の賃金の50%になるだろうと見積もりました。そして、その50%になった段階でマクロ経済スライドは止めると法律に明記しました。
 もしも少子化が今以上に進んで厚生労働省の予想が外れたとしても「法律を改正しない限りは50%を割り込む事は絶対にない」と厚生労働省は主張していますが、逆に言えば、今回同様に法律をいじってしまえばこの条件を外す事ができます。
 予想が外れた時にどうするかは「その時になったら考える」と言う事になっている様です。

不足する保険料は?

保険料の上限を決める

 現在の保険料では足りない一方で、「青天井ではない」と言う事を約束したので、保険料の上限を決めなければなりません。そして、その上限の保険料に切り替えるわけですが、いきなり値上げしたらブーイングの嵐になりかねないので、2017年を目指して毎年少しずつ値上げして行く事にしました。
 そして、その目指すべき保険料なんですが、厚生年金では最初は20%と言う設計値が示されたのですが、国会で18%だの18.5%だの根拠のない数字が飛び交い、結局は「中を取って」18.3%に決まってしまいました。
 国民年金も、厚生年金の引き上げ率に合わせて、「16,900円×賃金上昇率」に向けて値上げされます。(注:16,900円ではありません。もしも賃金統計が1割上がれば、16,900円の1割増になります)

国庫負担率を上げる

 現在、国民年金や、厚生年金の「基礎年金相当分」に対して、1/3の国庫負担がされていますが、これを1/2に引き上げて、保険料の不足を補う事になりました。
 最初から1/2と決まっていたものを政策的に1/3に下げていたのですが、それを元に戻すだけです。
 しかし、お金の調達先についてはまだはっきりとは決まっていません。(定率減税の廃止…では足りないので、多分消費税が上がるのでは?)

積立金を取り崩す

 まだそれでも保険料が足りないので、積立金を取り崩す事にしました。
 今までは「未来永劫」財政が均衡する様にと言う事で、積立金の利子だけで年金を切り盛りしようとしていたので、給付に必要な額の6年分の積立金を常に確保していました。
 それを「向こう100年」財政が均衡すればよいと言う事にして、天変事変があった時に耐えられるだけの積立金(給付の1年分)だけを確保すればよいと改め、残りを100年かけて使ってしまう事にしました。

財政検証

 財政再計算をしなくても、設計値が全自動で変化する仕組みになり、財政再計算は行わなくなりました。その代わり、点検だけはやっておこうと言う事で、5年に一度「財政検証」をする事にしました。
 これまで財政再計算時についでにやっていたもろもろのプチ改革は、今後も財政検証時に行われ続ける事になります。

制度体系の変更は?

 以上の様に、厚生労働省は方針の大転換をしているのですが、それでも現行の制度に手を入れたに過ぎません。
 国会で色々議論された「国民年金の100%税法式化」や「全国民の年金制度の一本化」などの、制度そのものを作り替えてしまう案に対しては、厚生労働省は欠点をずらずらと挙げて「機は熟していない」とバッサリ切り捨てています。
 しかし、現行の制度であり続ける限りは、国民の間の不公平感や不安感はなくなる事はなく、厚生労働省の主張は現在の制度を守るための言いわけにしか思えません。
 やはりここは、国民皆の声を集めて、国会議員達にがんばってもらうしかないでしょう。


 前回は年金制度の方針転換にかかわる部分の改革内容を説明しましたが、今回はどちらかと言うと5年に一度の定例プチ改革に当たる内容について紹介します。
 厚生労働省が掲げた改革キーワードのうち「生き方、働き方の多様化に対応した公的年金制度」にかかわる改革内容となります。

 今回ここに並べた改革の内容は、すでに始まっているものもあれば、まもなく始まるものもあれば、数年後からのものもあります。
 また、生年月日によって新しい規程が当てはまるのか、改革前の古い規程が当てはまるのかも変わって来ます。
 ですから、気になる内容がある場合は、必ず細かい事を調べたりお役所に電話したりしましょう。絶対に「取らぬタヌキ」をしないで下さい。

在職老齢年金の見直し

 60歳を過ぎても働き続ける人が増えて来て、老後の生活も「人生色々」になって来たので、在職老齢年金(働きながら年金をもらう人達に対する調整)を少し見直す事になりました。

65歳未満の在職老齢年金

 現在は、65歳未満の人が働きながら厚生年金をもらう場合、

  1. まず最初に年金を一律2割カット
  2. 年金額と給料に応じて年金をカット

 の2段階で、年金額が減らされていました。
 老人の労働意欲を邪魔しない様にするために、「一律2割カット」をやめる事にしました。

70歳以上の厚生年金支給停止

 現在、給料をもらっているなら70歳になるまでは保険料を払わなければならず、年金額と給料に応じて厚生年金がカットされています。
 70歳以上は保険料を払わないので、厚生年金は全額もらえるのですが、若者世代がそれでは許さないだろうと言う事から、70歳以上でも給料をもらっているのなら(保険料は取らないけど)年金額をカットする事にしました。
 定年のない零細企業の職人さん達は(給料が安いので、影響はひどくないものの)可哀そうなのですが、この規程で年金がカットされる人達のほとんどが、給料の高い社長さん達となります。

厚生年金の支給繰下制度

 65歳からもらい始める年金を、数年(もらう人が決める。最長5年)もらうのを我慢して、その代わりにもらえる金額を増やしてもらうのが支給繰下制度です。
 現在は、厚生年金は繰下ができないのですが(在職の場合は、繰下げ=支給停止逃れになるから)、「お給料があって暮らせるんだし、少しだけになってしまった年金は今はいらないから繰下げにしたい」と言う要望を受け、支給停止されなかった部分については繰下げができる様に改めました。

年金の返上

 お金に余裕があって年金は必要ないと言う人達が「私は年金はいりません」と言って自分の意志で厚生年金を支給停止にできる制度が作られました。(表彰制度は、ないみたいです)

夫婦間の年金分割

 夫婦のあり方もバラエティに富み、「人生色々」になって来ているので、「世帯単位で」と言う厚生年金の設計思想では困る人達が出てきました。夫婦間で年金を分け合う事で、厚生年金に「個人単位で」と言う考え方が入る余地を作りました。

離婚時の厚生年金の分割

 離婚した夫婦が相談して(or裁判所の決定で)、厚生年金保険料の納付記録(将来、年金額を決める際の基礎データ)を夫婦で分け合う制度が作られました。

離婚時の厚生年金の強制分割

 片方が第3号被保険者(厚生年金に入っている人に扶養されていた配偶者)だった場合は、片方の申出だけで離婚時に強制的に、厚生年金保険料の納付記録を半分ずつに分けてしまう制度が作られました。

本当は…

 離婚時だけではなく、仲睦まじい夫婦の場合でも分割ができる様に考えられていたのですが、今回の改革では、猛反発に合ってお流れになってしまいました。

遺族年金の見直し

若者の遺族年金の見直し

 今まで遺族厚生年金は、再婚しない限りは一生ものだったのですが、遺族年金があるがために仕事につかなかったり再婚しなかったりする人がいたので(世界的に見ても、手厚過ぎる制度だった)、30歳未満で子供のいない妻の場合は遺族厚生年金は5年限りにする事にしました。

老人の遺族年金の見直し

 夫婦そろって厚生年金に入っていた場合は、夫の遺族厚生年金をもらうか自分の老齢厚生年金をもらうか、どちらかを選ばなければなりませんでした。自分の払って来た保険料が掛け捨てになってしまうと言う批判が多かったため、夫の遺族厚生年金と自分の老齢厚生年金を半分ずつもらうコースが加わりましたが、それでも「夫の遺族厚生年金だけコースが一番金額が多い(自分の保険料が掛け捨て)」と言う人達が多数派になっています。
 そこで今後は、

  1. まず最初に自分の老齢厚生年金をもらう
  2. 足りない分を夫の遺族厚生年金としてもらう

 と言うやり方に改める事になりました。カラクリが変わるだけで、もらう金額に変化はありません。

子育て支援

 少子高齢化対策として、年金制度で子育てを応援するために、厚生年金の保険料を免除する制度があります。
 今までは、育児休業を取った人は、子供が1歳になるまでは、厚生年金の保険料を払わなくてもいい(記録上は払った事にしてあげる→将来の年金額に反映させる)と言う事になっていました。
 これを「子供が3歳になるまで」に延長する事にしました。
 また、3歳になる前の子供を育てながら働き続ける人に対して、子育てで労働時間が減ったりして給料が下がった場合(=保険料が下がる→将来の年金額が下がる)、記録上は子供を産む前の保険料を払った事にしてあげる、と言う制度ができました。

国民年金

保険料免除制度

 国民年金の保険料免除制度は、現在「全額免除」「半額免除」の2種類ですが、そこに「1/4免除」「3/4免除」が加わり、「払えるだけは払っておきたい」と言う人達のハードルが低くなります。
 また、2005年4月から、一人暮らしを中心に免除の基準が緩くなるので、これまで基準に引っかかって免除してもらえなかった人達は、再挑戦してみて下さい。

若者のための保険料猶予

 現在では、学生だと国民年金の保険料の支払を猶予してもらえる(将来の年金額には反映させないが、未納扱いにはしない。10年以内に出世払いしてもらえば、年金額に反映する)制度があるのですが、この制度を学生に限らず30歳未満の若者で所得が低い人達にも広げる事となりました。

高齢任意加入

 国民年金は60歳になると保険料を払わなくてよくなりますが、満額にしたい人達のために65歳になるまで保険料を払ってもいい事になっています(誰でもOK)。
 さらに、保険料を払った月数が足りなくて、年金がもらえない人達のために、年金がもらえる様になるまでの間(上限は70歳になるまで)、保険料を払ってもいい事になっています。
 ただしこの65歳〜70歳の任意加入は特例措置なので、今までは昭和30年4月1日以前生まれの人だけにしか認められませんでした。今回これを、昭和40年4月1日以前生まれに広げます。
 今まで一銭も保険料を払った事のない人でも、昭和35年度生まれ以降であれば、まだ70歳まで25年あるので間に合います。(昭和33年度生まれでもギリギリセーフかも?)

第3号被保険者届出漏れの救済

 第3号被保険者(自分では国民年金を払わなくてもいい人=夫の厚生年金経由で国民年金に加入している人)の中には届出漏れが多く、後から気がついて届出をしても過去2年間までしかさかのぼって記録を直してもらえず、年金が減ったりもらえなくなったりする人が続出していましたが、今回「過去2年間」の条件が撤廃される事になりました。2005年4月から受付が始まります。心当たりの人は忘れずに社会保険事務所へ行って下さい。
 特に、すでに国民年金をもらっている人は、届出した月から年金額が変更になるので、4月になったらすぐに社会保険事務所へ行きましょう。

免責

 このページは2004年7月〜2005年2月に配信したメルマガを再構成したものです。時間の経過とともに、文中の数字にはズレが生じており、また、制度や世情にも変化が生じている可能性がある事を、あらかじめ御了承下さい。
 扱うテーマが「年金」と言う制度と法律に関するものではあるのですが、概念的な部分を取り上げるため、どうしても厳密さや正確さに欠ける傾向にあります。ですから、何かの判断の参考にする場合や手続きを行う時は、必ず別の情報源でも確かめて下さい。このページの記事により損害が発生しても、補償は一切いたしませんので、あらかじめご了承ください。



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