払う年金
このメルマガは、年金の概念について語る事を目的としているので、年金制度についての説明をほとんどして来ませんでした。
このメルマガの最終回を前に、年金制度についての説明をまとめておきます。
年金制度は大変に複雑で難しいです。でも、難しいのは度重なる改革によって生まれた「経過措置(=例外規定)」が山ほどあるからであって、基本的な部分については結構単純な仕組みになっています。
人によって受ける事になる例外規定が変わって来る上に、その人の人生をも左右しかねない大きな権利についての説明のために、ほとんどの年金本や年金メルマガは、その例外規定を漏れなく説明しようとしています。
しかし、例外規定をきちんと説明しようとすると、それだけで延々とメルマガを続ける事が出来てしまうので、このメルマガでは基本部分を押さえるだけにしておきます。
公的年金は保険です
日本の公的年金は「保険」として作られていて、積立ではありません。
厚生年金は正式には「厚生年金保険」と言います。国民年金はわけあって「国民年金保険」とは言いませんが、それでもほぼ100%保険です。
公的年金の種類
日本の公的年金には3つの制度があります。
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厚生年金
- 会社勤めの人が入る制度で、社会保険庁が運営
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共済年金
- 公務員や学校の先生が入る制度で、各地方や各職域の共済組合が運営
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国民年金
- 日本に住む20歳以上60歳未満の人(国籍を問いません)全員が入る制度で、社会保険庁が運営
厚生年金と共済年金は、ほとんど同じ仕組みになっています。共済年金に入っている人は、共済組合が説明も手続も手取り足取り面倒見てくれるので、何の心配もしなくてもいいです。(以後、共済年金の説明は割愛します)
厚生年金は会社員が、国民年金は国民全員が入ると言う事なので、会社員の人は厚生年金と国民年金の両方に入る事となります。
国民年金の被保険者の種別
種別によって国民年金とのかかわり方が全く違って来るので、自分がどの種別になるのかをしっかりと確認しておいて下さい。
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第2号被保険者
- 厚生年金にも入っている人
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第3号被保険者
- 第2号被保険者に扶養されている配偶者(妻に限らず、夫でも構いません)
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第1号被保険者
- 第2号でも第3号でもない人
届出
- 《厚生年金
》
- 会社が全部やってくれます。
- 《国民年金》
- 日本に住んでいて20歳になると、自動的に加入になります。しかし、社会保険庁は、どこに誰がいるのか、その人が第何号になるのかが把握出来ないので、届出が必要です。
第2号と第3号については、会社の厚生年金の届出が連動してくれるので、意識する必要はありませんが、第1号については市町村役場へ行って届出しなければなりません。
保険料
- 《厚生年金》
- 給料×料率(13.58%) で計算され、給料から天引きされます。半額を会社が持ってくれるので、天引きされるのは半額になります。
- 《国民年金》
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第1号被保険者
- 月々13,300円を自分で払いに行きます。
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第2号被保険者
- 厚生年金の保険料の中に含まれています。
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第3号被保険者
- 厚生年金制度が負担してくれているので、自分で払う必要はありません。
国民年金の任意加入
国民年金に適用外の人でも、次の人は国民年金に入る事ができます。
- 海外に住む日本人は、国民年金に任意加入できます。
- 保険料の納付月数が足りなくて老齢年金が満額にならない人は、65歳になるまで国民年金に任意加入できます。
国民年金の保険料免除
国民年金は条件がそろえば自動的に加入(強制加入)なのですが、生活苦で支払が困難な人のために、保険料の免除制度があります。
- 学生の人は、申請すれば保険料を免除してもらえます。
- 生活保護を受けているなどの人は、市町村役場の判断で、保険料が免除になります。
- 市町村役場に申請して、認めてもらえれば、保険料を免除してもらえます(結構ハードルが高いです)。全額免除と半額免除の2コースあります。
免除で保険料を払わなかった分だけ、老齢年金の額が減りますが、免除の期間は未納扱にはなりません。
10年以内であれば、免除で払わなかった分の保険料を払う事ができます。
未納だとどうなる?
- 《厚生年金》
- 会社が保険料を滞納しても、それは本人の責任ではないので、未納扱にはなりません。
- 《国民年金》
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納付期限から2年を過ぎると、払いたくても受け取ってもらえなくなります。
未納が多い人は、保険金を受け取れません。国民年金ばかりか厚生年金も連動してもらえなくなります。
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老齢年金
- 納付月数が合計25年にならない人は、年金をもらう事ができません(例外規定がいろいろあります)。
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障害年金と遺族年金
- 未納な月数が3分の1以上ある人は、年金をもらう事ができません(原則)。
平成27年度までは猶予と言う事で、過去1年間分が払われていれば年金が出ると言う例外規定があります。死んだり怪我したりした日の前日の時点で見るので、過去の未納が多い人は、くれぐれも滞納しない様に気をつけて下さい。
もらう年金
前回に引き続き、年金制度についての解説です。前回が「払う年金」でしたので、今回は「もらう年金」です。
大枠なイメージをつかんでもらうべく、極限にまで単純化しています。本当にもらう立場になってしまった人や、捕らぬタヌキを考えている人は、必ず他の情報源でも調べて、自分のケースでは受給権があるのか、いくらもらえるのか、確認を怠らない様にして下さい。
年金がカバーしてくれる保険事故
- 老齢年金 歳を取って働けなくなってしまった
- 障害年金 障害を負って働けなくなってしまった
- 遺族年金 死んでしまって働けなくなってしまった
- 厚生年金から支給される年金は「○○厚生年金」の様な名前になりますが、国民年金の方は「○○基礎年金」と言う名前になります。
老齢年金
老齢基礎年金
65歳になったらもらえます。
- 支給額(年額)
- 満額(794,500円)×国民年金の納付月数÷480月
- 40年間全部をもれなく払っていれば、満額がもらえる事になります。
老齢厚生年金
65歳になったらもらえます。
- 支給額(年額)
- 厚生年金加入期間中の月収の平均×料率(0.5481%)×厚生年金の加入月数
- ボーナスは月割にして、計算に入れます。貨幣価値が違う昔の月収は、現在の貨幣価値に換算されて、計算されます。
支給例
厚生年金に加入していた期間の年収平均が360万円で、厚生年金に30年加入していた人は、老齢厚生年金の額は58万円になります。夫婦共に国民年金に未納がなければ、老齢基礎年金(二人分)と老齢厚生年金を合わせると、合計で217万円になります。
- 公的年金は、掛け捨てです。早死にすると保険金はもらえず仕舞いになります。その代わり、いくら長生きしても支給停止になる事は決してありません。
障害年金
障害等級について
どの様な障害が何級になるかは、法律で厳密に決まっていますが、あえて誤解を恐れずにものすご〜くおおざっぱに説明すると、大体次の様な感じになります。
- 1級 一人では生きられない
- 2級 一人では外出できない
- 3級 働くことができない
障害基礎年金
2級以上の障害になった時に支給されます。
- 支給額(年額)
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- 2級=794,500円(老齢基礎年金満額と同額)
- 1級=993,100円(2級の2.5割増)
- 子供の数に応じて家族手当が出ます。(一人目と二人目に各228,600円、三人目以上は各76,200円)
障害厚生年金
厚生年金に加入中に傷病を負い、3級以上の障害になった時に支給されます。
- 支給額(年額)
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- 3級=595,900円(老齢基礎年金満額の3/4)
- 2級=老齢厚生年金と同額
- 1級=老齢厚生年金の2.5割増
- 1級と2級は、扶養している配偶者がいると、家族手当が出ます。(228,600円)
- 老齢厚生年金の額を計算する時に、加入月数が25年未満の時は、25年入っていたものとして計算します。
支給例
年収300万円の人が厚生年金に加入中に事故に遭い、妻が専業主婦、子供が二人いる場合の障害基礎年金と障害厚生年金の合計は、次の様になります。
障害等級 | 最初に | 一人目が高校卒業後 | 二人目が高校卒業後 |
1級 | 218万円 | 195万円 | 172万円 |
2級 | 188万円 | 165万円 | 142万円 |
3級 | 59万円 | 59万円 | 59万円 |
- 介護を受けながらの生活となると、この額では決して充分ではありませんが、それでもかなりの力強い助けになります。ずっと未納していていきなり障害者になると一銭も支給されないので、本当に首を吊るしかなくなります。
遺族年金
遺族基礎年金
子育て中の妻が受給できます。(夫は不可です(;_;)
- 支給額(年額)
- 794,500円(老齢基礎年金満額と同額)+子供の数に応じて加算
子の加算=一人目と二人目は各228,600円、三人目以上は各76,200円
- 子供のいない妻や子育てが終わった妻、夫などはもらえません。
遺族厚生年金
妻が受給できます。(夫は、年老いていない場合は不可です)
次の条件のどれかに当てはまる人が死んだ時に、遺族厚生年金が出ます。
- 厚生年金に加入中
- 障害厚生年金(1〜2級)をもらっている
- 老齢厚生年金をもらう権利を得ている(国民年金を25年払い済み)か、すでにもらい始めている
- 支給額(年額)
- 老齢厚生年金の3/4
- 死亡時の条件が1)か2)の人は、老齢厚生年金の額を計算する時に、加入月数が25年未満の時は、25年入っていたものとして計算します。
- 遺族基礎年金のもらえない(子育てが終わったor子供がいない)妻には、40歳〜64歳の間、595,900円(老齢基礎年金満額の3/4)の加算があります。
支給例
年収300万円の人が厚生年金に加入中に死亡し、子供が二人いる場合の妻が受け取る遺族基礎年金と遺族厚生年金の合計は、次の様になります。
最初に | 一人目が高校卒業後 | 二人目が高校卒業後 | 妻が65歳になると |
155万円 | 132万円 | 90万円 | 30万円 妻本人の老齢基礎年金も併給される。 老齢基礎年金が満額なら、合計109万円。 |
- 遺族年金の基本的な考え方は「働けるなら自分で働いて稼げ」と言うものです。働けない人が残された時に、年金が支給されます。
- 一番多いパターンが、夫婦共に老齢年金がもらえる様になり、その後、夫に先立たれた妻が夫の遺族厚生年金と自分の老齢基礎年金をもらって生涯を全うすると言うものです。
- 平成19年4月からは、30歳未満で未亡人になった子のない妻には、遺族厚生年金の支給は5年限りとなります。(さっさと再婚しなさい、と言う意味?)
- 遺族基礎年金も、遺族厚生年金も、再婚したらもらえなくなります。
社会保障の中の年金の役割
年金は、事故によって働く事が出来なくなった場合にその所得を保障してくれる「保険」です。
年金は次の各種社会保険と連係・分担して、国民生活のセーフティーネットとして機能しています。
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健康保険(政府管掌)(会社で入る健康保険)
- 私傷病による短期間の所得喪失を保障。
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雇用保険
- 失業による短期間の所得喪失を保障。
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労災保険
- 業務上の傷病による短期&長期の所得喪失を保障。
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国民年金&厚生年金&共済年金
- 傷病や老齢(業務上かどうかは問わない)による長期間の所得喪失を保障。
(国民健康保険(市町村で入る健康保険)には、所得を保障する制度はありません)
あくまでもセーフティネットですから、生活が完全に立ち行かなくなるのを防ぐ程度のものです。これら社会保障だけで生活して行くのはちょっと無理があるので、普段からの自助努力も欠かせません。