■年金講座 改革するとしたら
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年金は本当に破綻するの?〜若者のための年金講座

第9章 改革するとしたら

平成16年の年金改革

 年金の抱えている問題点〜国民の中でくすぶっている年金への不信感を、ものすご〜く簡単にまとめると、大体次の様になると思います。

  1. 年金って危ないんじゃないの?
    • 今までの「安い保険料」「高い給付」のツケがたまってしまった
    • 少子高齢化で財政のバランスが危なくなって来ている
  2. 年金ってワケわかんないんだけど
    • 自分が何に属してどう手続してどれだけ払えばいいかが、よくわからない
    • 人によって(自分の身分の変化によって)年金がコロコロ変わって、よくわからない
    • いっぱい払う人と払わなくていい人とがあって、使い切れない人とお小遣いにもならない人とがあって、何だか不公平

 これらの問題をしっかり片づけて行かない事には、年金は国民の信頼を取り戻す事が出来ないでしょう。

 本来、年金は「40年払って20年もらう」制度なので、数十年間に渡ってひとつのルール、ひとつのシステムで運用されなければならないはずのものです。一度設計をしたら、めったやたらにいじってはいけないのです。
 しかし、時代は刻一刻と変化しているので、制度に不具合が出て来たら手直しをしなければなりません。そうやって手をつけて来た数々の改革によって、年金制度は継ぎはぎだらけの、専門家も逃げ出す魑魅魍魎な化け物になってしまいました。それが、わかりにくさの原因にもなっています。
 ここらでいっぺん整理をして、すっきりさせたらわかりやすくなるのにと、おそらく誰もが思っているのではないでしょうか?
 改革をするのであれば、抜本的な、制度全体の再設計をした方がよいでしょう。社会が成長期から成熟期へと「時代の変わり目」を迎えている事や、年金に国民の関心が集まったのも今回が史上初と言う事から、今を逃したら次のチャンスはなかなか来ないのではないかと思います。

 しかし、平成16年改革では、今までの制度の基本部分には手をつけずに、ちょっとした手なおしだけで終わってしまいました。

 実は、その平成16年改革は、法律に「5年に1度、必ずプチ改革をしなさい」と書かれている、その定例のプチ改革なのです。(5年前にも、10年前にも、ひっそりとプチ改革は行われていました)
 しかも今回は、何だかんだともめたおかげで、ズルズルと半年も遅れてしまいました。

 この改革で、保険料を上げる段取りを決め、給付を減らすシステムを作ったので、当面は財政を安定させる目処がつきました。ですから、プチ改革としては及第点だと私は思います。
 遅れた分だけ財政は影響を受けるし、制度を運用する現場は混乱するので、私自身も法案成立までは「どうでもいいから、さっさと決めやがれ」と思ってテレビを見ていました。

 が、しかし、こんな誰も理解できない様な、しかも、将来が怪しい制度をこのまま続けて行っていいのかと言うと、話は別です。平成16年改革には付則として抜本的な改革を検討すると言う文言がつけ加えられましたが、この文言が骨抜きにされない様にこれからも国民みなで議論を続けて、議員達をせっついて行かなければならないでしょう。

年金一元化とは

 平成16年改革は、5年に一度の定例プチ改革でしかありません。
 しかし今回は、史上初めて厚生労働省が「年金が危ないんです」と言い、史上初めて国民の間で年金に関心が集まった事から、国会の方でも、大改革をした方がいいのではないかと言う機運が生まれました。

 色々と不公平感があるのも、制度がわかりにくいのも、身分によって入る制度が別れるからに他なりません。そこで出て来た話が「年金一元化」と言うものです。

 政府与党が考えた改革案が、共済年金を厚生年金に吸収合併させようと言うものです。これで日本の年金は、国民年金と厚生年金の2種類になります。
 現在の共済年金は、厚生年金とほぼ同じ仕組みの上に、独自給付を上乗せした形になっているので、厚生年金への合併はそんなに難しくはありません。
 共済年金は、学校の先生や各地方の公務員、省単位の国家公務員でそれぞれに組合を作って、各組合で運営されています。厚生年金や国民年金をやっている社会保険庁では、誰が入っているのかが把握できない世界が、そこには存在するのです。

 年金制度の中に、社会保険庁が預かり知らない部分がある…。そのため、厚生年金や国民年金に入ったりやめたりする時に、いちいち届出をしてもらわないと、社会保険庁は皆が第何号被保険者になっているのかがわからないのです。
 共済年金を廃止して厚生年金に組み入れてしまえば、社会保険庁が国民全員を把握できる様になるので、会社をやめて厚生年金を抜けても、特に手続きしなくても自動的に国民年金の納付書を送って来てくれる様になりますし、第3号被保険者(サラリーマンに扶養されてる専業主婦)の届出漏れもちゃんとチェックできる様になります。

 かなりたくさんの議員に未納が見つかり、マスコミが賑やかになりましたが、ひと通り見てみるとほとんどの人がミスで払い損ねた「勘違い未納」と言う人達ばかりでした。
 私自身にも勘違い未納がありますが、国民の間にも勘違い未納がある人は、かなりの数になるはずです。
 その様な、ミスで年金が減ってしまうと言う事態を、この改革案は防いでくれる事になるのです。

 一方、民主党が考えた改革案は、共済+厚生はおろか、国民年金も加えて全部の制度をひとつにしてしまおうと言うものです。
 現在の国民年金は税方式にしてしまい、保険と言う考え方から切り離してしまいます。最低保障年金として生まれ変わる事になり、これで「年金を払わない(もらえない)」と言う人達を撲滅させる事が出来ます。
 そして、今まで国民年金を払っていた人達も厚生年金だった人達も、現在の厚生年金同様に所得に応じて保険料を払って年金をもらえる様にします。これで今まで「雀の涙の国民年金なんて当てに出来ない」と言っていた自営業者の人達も、年金に頼れる様になります。

 国民全員が、ひとつの同じ制度に加入し、所得に応じて保険料を払う形になるので、大変スッキリしてわかりやすくなり、不公平感もありません。未納問題もないので「年金の空洞化」もありません。
 与党は「自営業者は所得の把握が難しいから、国民年金は定額制だったはずだ」と言う点を問題視しています。しかし、税金の申告と保険料をリンクさせる方法でもいいでしょうし、自己申告(加入口数を自分で選べる)でも別にいいと思うし、その辺はどうにでもなるのではないでしょうか?

 一方、国民年金が税方式に切り替わると(財源は十中八九消費税になるでしょう)所得再分配機能がなくなってしまうので、所得の少ない人達は今よりも生活が苦しくなってしまいます。
 また、最低保障年金には保険の考え方がないので、普段特に何もしなくても将来年金がもらえる事になります。所得のほとんどない人達にとっては「65歳になったら、もらえるお金が『生活保護』から『年金』に名前が変わった」と言う事となり、そう言う人達の自立心がなかなか育たなくなると言う問題もあります。

皆さんも考えてみましょう

 どんな改革をしたらいいのかを考えるのは、色々ある制度の仕組みや制約について知らないと難しい様な気がしますが、だからと言って考える事をやめてしまうと、それこそ何も起こりません。
 実現の可能性はとりあえず置いておいて、皆さんも「年金はこうしたらいいのではないか」と言う事を、気軽に考えてみましょう。
 ここでは、私があちこちで見聞きしたそんな改革案を並べてみました。ヨタ話として受け止めて、年金談義のネタにしていただければと思います。

厚生年金の民営化

 比較的昔からよく耳にする改革案です。
 国民年金をある程度の額にして、国民年金だけでもどうにかこうにか暮らす事ができる様にすれば、それ以上の暮らしを国が保障する必要はなくなるのではないかと言う点から「厚生年金を民営化してしまってもいいのではないか」と言う発想が生まれて来ます。
 厚生年金すらなくしてしまい、国民各自が、自分の目指すプラスαな老後生活のために、自分で貯蓄したり運用したりして行けばいいのではないか、と言う人もいます。

 そもそも厚生年金が国営なのには理由があります。
 自営業な人よりも働き方に制約があるサラリーマンには、老後の収入の当てがありません。サラリーマンは保護されるべき人達と言う事で、優遇するために厚生年金が存在しているわけです。
 しかし、国民年金は自営業者だけでなく、パートやアルバイトや小さな会社の従業員などの(どちらかと言うと収入の少ない)人達も入っています。そう言う人達がどんどん増えていて、むしろサラリーマンの方が恵まれていると言える状況になっています。
「厚生年金に入れるなんて、うらやましい」なんて言われる様では本末転倒なわけで、恵まれているサラリーマンを国が保護優遇するのはおかしな話です。だったら、国営にこだわる必要もないのではないでしょうか?

国民年金の民営化

 色々な分野で民営化が進んでいるなら、いっそ国民年金も民営化してみたらどうだと言う意見も出て来ます。しかし、こちらについてはそうは問屋が卸しません。
 老後の年金については民間の生保会社でも商品を見かけます。しかし、国民年金や厚生年金では、老後だけでなく死んだ時や障害者になった時にも年金が出ます。

 特に障害年金は、障害者になってしまってから死ぬまでの間、ずっと生活費を援助してくれます。が、これに代わる民間商品が存在しないのです。ひとりの人の一生涯を面倒見ると言うのは、民間には荷が重すぎるのですね。
 労災保険を民営化しようと言う話が検討されているのですが、こちらも同様の理由で「やめた方がいいんじゃないか」と言う声が上がっています。
 自動車で皆さんが入っている自賠責保険は、民間の保険会社がやっています。だったら労災保険や年金も民営化できそうに思えるのですが、自賠責保険では、障害者になってしまった人に対しての保険金の出し渋り(色々と難癖をつけて、払おうとしない)が、現に問題になっているのです。

公的年金の廃止

 年金そのものをなくしてしまおうと言うものです。完全な自助努力の社会となります。
 国民皆が「その方がいい」と思うのであれば、私はこれも有りかと思います。
 自分はどう働いてどう老後を暮らすのかと言うのがきちんとイメージできる様に、自助自立の精神をしっかりと教育する制度を整備し、私的年金(会社の退職金な年金や議員年金みたいなもの)や、地域や職業での互助会の様なものや、保険会社の年金商品などが充実して来れば、公的年金がなくても何とかなる様な気がします。

年金受取辞退制度

 私がネットを見ていて、たまたま見かけた改革案です。
 使い切れないほどの年金をもらっている人や、年金なんかなくてもやっていける人がいます。
 年金の資金が足りないのであれば、そんなにたくさん年金はいらないと言う人達から、返上を受け入れたっていいのではないでしょうか?
 返上をした人達には見返りはありませんが、「大変名誉ある行為」「社会貢献」と社会が認めて高い評価をする様になれば、返上する人が次々出て来るのではないかと思います。

厚生年金の任意加入

 私が参加している勉強会で出て来た改革案です。
「厚生年金の空洞化」と言う現象があります。保険料の負担が重いので、厚生年金に入りたがらない会社が多いのです。
 せっかく就職したのに国民年金を続けなければならない人達が大勢います。
 国民年金だけでは老後の生活が不安で、今の生活を切り詰めても、会社の半額負担がなくても、厚生年金を払って行きたいと言う人達は割にいるのではないかと思います。
 入りたくない会社には強制的に入らせようとして、一方で入りたいと思っている人達には門戸を閉ざしているのは、何か変です。せめて、入りたいと思っている人達は入れてあげたっていいんじゃないのか、と言うのがこの改革案です。

国民年金の出世払い

 与党が考え出した改革案です。
 現在の制度では、納付期限から2年を過ぎてしまった保険料は、払いたいと思っても一切受けつけてもらえません。
 この改革案は、そうやって未納扱いになってしまった分について、改革後3年間に限って特例で受けつけようと言うものです。もし払えるのであれば、今まで一切払っていなかった人でも、未納期間をなくす事ができます。
 3年間の特例が終わった後は、「納付期限から2年以内」を「納付期限から5年以内」に改めます。
 2年が5年になると、勘違い未納を発見してもまだ間に合う可能性がとても高くなりますし、失業などで払えなくても後からまとめて払いやすくなります。

年金周辺の雰囲気作り

 前回は「年金制度をどう改革して行けばいいのか」と言う視点から改革話のネタを並べてみましたが、実は年金改革について考える時には、もうひとつ別の視点からの切り口が存在します。
 制度そのものについて考えるのではなく、制度を支える周辺について考えると言う切り口で、言わば「年金周辺の雰囲気作り」をどうするのかと言うものです。

厚生労働省は宣伝が下手

 難しい制度であるからこそ、どんどん周知活動をして行くべきだと思います。
 厚生労働省もそれなりに努力はしていて、色々な資料を作って配付しているのですが、はたしてそう言う事を少しはやっているのかと疑いたくなるほど、国民の間にその周知活動が伝わっていません。
 例えば平成16年改革について、厚生労働省はわかりやすく解説した冊子を作ってネット上で公開していますが、その存在はほとんど知られていません。
 冊子やリーフレットを作るのはいいのですが、その配付が下手クソなのでしょう。市町村役場や銀行や駅に置いてもらうとか、テレビやラジオに取り上げてもらうとか、もうちょっと色々な所で見かける工夫があってもいいと思います。

社会保険事務所に人が足りない

 平成16年になってから、全国の社会保険事務所がとても混雑する様になってしまいました。
「あるある大辞典」が年金を取り上げ、自分の第3号被保険者の記録に不安がある人は社会保険事務所で確認すべきだと放映した所、毎日たくさんの人が押しかける様になって、社会保険事務所の処理能力を越えてしまったのです。
 でも、よくよく考えてみると、老人だけが年金窓口に行くと言うこれまでの姿が異常なのであって、今の様に色んな年代の人が年金について聞きに行くと言う状態の方が正常なはずです。
 今回の「あるある大辞典」のおかげで、今まで厚生労働省や社会保険庁の啓蒙活動が不充分だったと言う事と、社会保険事務所の相談員が少ないと言う事がわかりました。
「あるある大辞典」が放映される以前でも、年金の窓口は1〜2時間待ちが当たり前でした。そんな場所へ、自分の記録や年金制度の説明を聞きに、気軽に行けるはずがありません。

親や学校が年金を教えない

 今の子供達には、年金について学ぶ機会がありません。どう生きてどう老いて行くのかと言う事は、本当は親が教えるべき事のはずなのですが、その肝心の親自身がよくわかっていないので、教え様がないみたいなんです。
 親が教えないなら学校が教えるべきなのでしょうけど、それも行われていません。学校の先生もよくわからないのでしょう。
 なら、専門家たる私達社会保険労務士が学校に出向いて講義する必要があるのかなと思います。
 年金に限った事ではなく、働き方やお金の使い方などの「生き方の基本」や、契約の事や税金や投資についてなど、色々な士業で「学校に行って話すべきだ」と言う機運が高まって来ている所です。
 また、すでに学校を卒業してしまった若者に対しても、その様なテーマの講演に触れる機会が必要だと思います。
 かく言うこのメルマガも、そう言う考えに基づいて発行しているものです。(悲しいかな、全然収入につながらないのですが)

少子化対策が足りない

 年金が危ない一番の原因が少子化なら、その少子化を何とかすれば年金問題も解決してしまいます。年金だけではなく、生産力や購買力の低下などの、日本の国力減少問題も解決してしまいます。
 少子化対策はこれまでも色々やって来ているのですが、どれも中途半端なお金の使い方なので、実を結んでいません。
 例えば、子供を持ちたい人達を応援すべく不妊治療を健康保険で見てあげたりとか、子育ても年金同様に社会全体で持つべきだとして養育費の補助を高額にするとか、今までの視点を変えて踏み込んだ制度改革をしてもいいと思います。
 子供が年間120万人生まれるのに対し、実は年間60万件もの中絶が行われているのだそうで、もしもこの子達が全員生まれて来ていたら、少子化問題は解決してしまう勘定になります。
 望まれないがために産まれる事のない子達がたくさんいる一方で、どれだけ努力しても子供に恵まれない人達も大勢います。その間をつなぐ掛け橋があってもよいと思います。

免責

 このページは2004年7月〜2005年2月に配信したメルマガを再構成したものです。時間の経過とともに、文中の数字にはズレが生じており、また、制度や世情にも変化が生じている可能性がある事を、あらかじめ御了承下さい。
 扱うテーマが「年金」と言う制度と法律に関するものではあるのですが、概念的な部分を取り上げるため、どうしても厳密さや正確さに欠ける傾向にあります。ですから、何かの判断の参考にする場合や手続きを行う時は、必ず別の情報源でも確かめて下さい。このページの記事により損害が発生しても、補償は一切いたしませんので、あらかじめご了承ください。



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