皆さんが感じる年金の不安は、多分次の様なものなのではないかと思います。「もらえなくなるなんて事は思ってない。でも、いくらもらえるのか、いつからもらえるのかが、怪しいんだ」
今までこのメルマガでは、終始一貫して「いくらもらえるのか」と言う視点でお話して来ました。
払うお金を渋るには、月々の払いを押さえる方法以外にも、もらう人数を減らす方法もあります。年金をもらい始める年齢を引き上げれば、その分出費を抑える事ができるのです。
でも、そんな日和見に年齢引き上げをされてしまうと、定年してから年金をもらい始めるまで、どうやって暮らしていけばいいかが皆目見当がつきません。それこそ老後の展望が描けなくなり、我々国民はどうしても不安になってしまいます。
現在、厚生年金では支給開始年齢を60歳から65歳へと引き上げている途中の段階にあります。そして、平成16年改革では「67歳に引き上げるべきだ」などど言う政府の改革案も飛び出したりして、この「いつからもらえるんだ?」な不安がどんどん大きくなってしまいました。
おかげで今では「もしかしたら、自分達がもらう頃には70歳からとかになってるんじゃないの?」と言う会話も、よく聞く様になりました。
国民年金の方は、制度発足当初から支給開始年齢は65歳でした。一方、厚生年金の方は60歳でした。昭和61年の大改革の時に厚生年金の一部が国民年金に取り込まれて、厚生年金に加入していた人達は、厚生年金と国民年金のふたつの制度から同時に年金をもらう状態となりました。その時に「ひとつの制度の中に、ふたつの支給開始年齢があるのは、矛盾しているのではないか」と言う声が上がりました。
この時の改革では「この矛盾を解消すべく、いつかは厚生年金の支給開始年齢を国民年金に合わせます」と、厚生年金の支給開始年齢引き上げが約束されました。しかし、それを正式な決定にするのに何度も国会でもめてしまい、平成6年になってようやく年齢引き上げが正式に決まりました。
平成13年から実際に引き上げが始まっていて、平成30年には全ての人が「年金の支給開始は、65歳から」となります。
支給開始の年齢を引き上げる事となったのは、制度内でのつじつまを合わせるためと、将来の財政の事を考えての事でした。だったら、まだまだ財政が怪しいのだから、再び支給開始年齢を上げればいいと言う考えも当然だと思います。しかし実際には、そうは問屋が卸してはくれません。
実は、年金の支給開始年齢と、労働法で決められている定年の最低年齢とは、リンクしているのです。
現在は、法律では定年は60歳以上と決まっています。65歳は努力義務と言う事になっているので、60歳で一度定年してから「再雇用」とか「継続雇用」とかで65歳まで働いてもらうと言う会社が増えています。しかしまだまだ「定年が65歳」と言う会社はほとんどありません。
このほど、この法定の定年年齢を「65歳以上」に引き上げるべく、準備が始まりました。これまで努力義務だったものを、義務にしてしまうのです。
元々国は65歳定年を目指していたのですが、それを今になって実行に移すのは、年金の方が段々と65歳支給になって来ているからに他なりません。
逆に年金の方も、労働法の方で定年を65歳にするのを予定していたから、安心して支給開始年齢を65歳に引き上げる事を決められたのです。
年金の財政が怪しいからと言う理由で、67歳とか70歳とかに引き上げる事になるとすると、その時は必ず労働法の方も定年年齢を引き上げる事になるはずです。
ですから、定年から年金もらうまでに間があって干上がってしまう心配は、ありません。
一方で、多くの人が勤め上げられない様な高年齢な定年年齢を法律で決めてしまう事もあり得ないと思えます。
年金の支給開始年齢は65歳のままで、それよりも年齢が高くなる事はないと私は思います。
ちなみに平成16年改革案で「年金は67歳から」と言ったのは、国は国でも財務省が言ったものでした。それに対して厚生労働省は、一笑に付して相手にしませんでした。労働法との絡みを考えれば、当然の事かと思います。
平成16年4月分の支給から、年金の額が減らされました。その事に関して怒っている人が、私の周囲にもいます。
この時ばかりではなく、平成15年の4月にも、年金額の切り下げが行われました。
これまでずっと「一度支給が決まった年金が、値下げされる事はない」と信じられて来たのに、2年連続で切り下げが行われてしまいました。こうやって毎年こそこそと切り下げを続けて、年金の支給をどんどん絞り込もうとしているのか、と勘繰りたくなってしまいます。
しかし、実はこの2年連続の切り下げは、最初から設計に折り込み済みのものなのです。
年金の金額を決めるに当たって、国民年金でも厚生年金でも「料率×払った保険料の総額」をそのまま支給するのではなく、次の様な調整を行っています。
で、今回の2年連続の年金額切り下げは、このうちの物価スライドによるものなのです。
実は、平成11年から、物価は下がり続けて来ました。でも、この不景気に年金を下げてもいいのかと言う意見や、年金額を前の年よりも下げた前例が全くなかったのとで、「物価に応じて年金額を動かす」と言う原則をねじまげて、ずっと下げずにいたのです。
しかし、さすがにそれでは年金財政が大きく痛手を負うので、平成15年には、ついに史上初の切り下げが行われました。前回物価スライドをやった平成11年と比べて、2.6%も物価は下がっていたのですが「前年と比べて0.9%下がったから」と言う理由で、下げ率も0.9%にとどまりました。
平成16年は、0.3%の下げとなりました。これも、前年と比べて0.3%だから、と言う事の様で、平成12年から3年間で下げ損なった1.7%分は、どうやらこのまま忘れ去られようとしています。
今まで、物価の上昇の通りに年金が値上げされて来たのですから、物価の下降に合わせて年金が値下げされるのは、ごく自然な事だと思います。上げてもらっている時は当然の事として受け止めて、いざ下がったらことさら文句言うのは、いかがなものでしょうか?
しかも、政府が3回も物価スライドを見送ったおかげで、実質1.7%値上げした状態になっています。
ですから、この物価スライドで金額が減った事をけしからんと言っているマスコミや政党を見かけたら、どうぞバカにしてやって下さい。
一方、賃金スライドは、平成12年から止められたままになっています。
実は厚生年金は、現在「5%適性化」と称して給付の切り下げが行われている最中なのです。(『切り下げ』と言わずに『適性化』と言う所が、こざかしいです)
この5%適性化は、こんな方法が使われています。まずは、料率を5%削った年金額を計算します。そして、料率は今まで通りだけど賃金スライドしなかった場合の年金額を計算します。そして、どちらか高い額の方を支給しようと言うのです。
賃金相場はおそらく上がり続けるはずだから、賃金スライドを止めた従来料率の年金よりも、5%割り引いたけど賃金スライドがある年金額の方が高くなる日がやがて来る、と言うわけです。そしてその時、晴れて「誰にもバレずに」厚生年金の5%割引が完成する、と言う計画でした。
所がしかし、計画通りに世間の賃金相場は上がらず、逆に今はどんどん下がり続けています。こんなんでは、いつまでもいつまでも5%適性化が出来ない所か、賃金スライドを止めているおかげで賃金の下げが年金に反映されない事となってしまっているのです。
ニューフェイスのマクロ経済スライドは「年金を現役世代の所得の50%の水準に下げる」事を実現するための仕組みとして導入されました。
しかし「物価スライドや賃金スライドでの上昇分の範囲内で」マクロ経済スライドを行うと言う事にしているので、マクロ経済スライドが利いたおかげで年金額が前の年よりも下がる事は決してありえないのです。(コツコツと実質目減りさせる事を狙っているのであって、額は下げない、と言う事です)
物価も賃金も下がり続けている限りは、いつまで経ってもマクロ経済スライドを使う機会が訪れず、いつまでも「現役の50%」が実現しません。
政府は、年金額を上げる時は、正直に統計の数字通りに上げるのに、下げる事に関してはこの様に非常に及び腰なのです。
下げる事に関して慎重だと言うのは、もらう側としては嬉しい話なのですが、統計数字から外れた事をした分だけ、年金の財政は正直に打撃を受ける事になります。
「年金の保険料は、年金の給付にしか使わない」と言う大原則があります。
その大原則を守るために、年金を運用するためにかかる諸経費を、国が別立てで出してくれています。
ですから、あちこちにある社会保険事務所の建物も、そこで働く職員のの給料も、社会保険事務所から色々送ってくる郵送費も、国から支給されている「事務費」でまかなわれており、保険料は一銭たりとも使われていません。
よく「ポスターを作ったり、CM作って流したり、保険料徴収に職員を歩き回らせたりして、保険料が無駄遣いされている」と言う人がいますが、ご心配なく。やはり一銭も使われていません。全て事務費で賄われています。(事務費も、回り回って私達が払った税金には違いありませんが)
で、ひと頃大変話題になっていた社会保険庁の官舎やグリーンピアも事務費で賄っているのかと言うと、実はそうではなかったのです。
バブル絶頂期の頃、株価はどんどんうなぎ登りとなり、まとまったお金を運用していた人達は大変な額のあぶく銭を手にする事になりました。
民間の会社が運用している厚生年金基金も、予定利率を大きく上回る運用をする事ができ、社員の福利厚生のためにと余ったお金をリゾート施設に注ぎ込みました。
厚生年金でも予定利率を上回る運用ができていて、お金は余っていたのですが、そこで年金受給者達が「私達の保険料を運用して余りが出ているのだから、私達の福利厚生に使うべきだ」と厚生省に圧力をかけたのです。それで、厚生年金の保険料を使って全国各地にリゾート施設ができる事になりました。
その後バブルは崩壊し、リゾート施設もお荷物になってしまいました。民間ではそんなものをいつまでも抱えていたら会社経営の足を引っ張るので、早々に売り払ってしまいましたが、官は判断がにぶいためか、そのタイミングを逃してしまいました。
一度作ってしまった物は何でもそうなのですが、とにかく維持費がかかります。グリーンピアも月々維持費が出て行っているので、たとえ0円でもいいから一刻も早く売り払うべきです。
しかし、これだけグリーンピアの批判が盛り上がっている今となっても、年金受給者達は「私達の福利厚生施設を取り壊すとはけしからん」と厚生労働省に圧力をかけ続けているのです。
私の想像ですが、おそらく厚生労働省は内心「グリーンピアは全部やめてしまえ」と誰かに決めて欲しいのだと思います。
ですから、困った老人達の声がかき消される様にするために、グリーンピア問題では私達みんなでどんどん厚生労働省批判をして行かなければなりません。
都心のまん中に豪華な官舎を建てる事自体は、私は悪い事とは思いません。格安の家賃も問題視されていますが、これも別によいのではないかと思います。
国家公務員はスキルアップのためのプログラムがはっきりしていて、それに合わせて定期的にあちこち転勤を繰り返します。ひとつ所に留まる事がないので、家を持つ事がとても難しいので、官舎が必要になります。高い位の人ともなると、身分相応の官舎も必要となるでしょう。
民間でも無料で社宅に住まわせる所があります。家賃を取るにしても格安にするのが普通です。(世間相場そのままで貸すなら、そんなの社宅じゃないです)
ですから官舎が世間相場よりもかなり格安でも、それは批判すべきものではないと思います。
でも、年金の保険料を使って官舎を建てると言うのは、全く理屈が通りません。
これは一体どう言う事なのかと言うと、平成13年に、国が緊縮財政だと言う事で、厚生労働省に渡すお金を減らした様なのですが、その時、減ってしまった予算の穴埋めをどうしようかと考えた官僚が、3年限りの時限立法を作って年金の保険料を流用できる様にしてしまったのです。
収入が減ったのなら減ったなりのお金の使い方をすればいいのですし、官舎を建て替える予算がないのならボロのまま使い続ければいいだけのはずです。
それをせずに、大原則をぶち壊して保険料を使い込んだこの行為は、許されるものではありません。
この使い込みは3年限りだったはずが1年延長される事が決まってしまいました。皆さんでどんどん厚生労働省批判をして下さい。
グリーンピアも官舎も、使い込みの額は年金全体の予算からすると、微々たるものです。これが原因で年金の資産に打撃を与えたり大勢が変化したりと言う事はないので、心配する必要はありません。しかし、無駄遣いをしている事には変わりないので、批判はして行くべきでしょう。
他には、社会保険庁はお金の運用が下手くそだと言う話もあります。
集めた保険料をそのまま金庫にしまっておくと、とても「倍のリターン」なんて出来ません。ですから、運用そのものをやめると言う事は出来ません。
「最近の株価下落で6兆円も損した」と言う話もあり、さすがにこの額となると年金の財政もただごとでは済みません。
しかし、売り買いを繰り返して手持ちのお金がなくなってしまったわけではありません。持っている株の価値が目減りして、帳簿上お金がなくなったかの様に見えているだけです。ですから、株価が戻れば、この損は返って来る事になり、損失額はだいぶ少なくなるはずです。
他と比べて運用が下手と言うのは当たっています。しかしこれは社会保険庁の責任かと言うと一概にはそうは言えません。
実は「この方面は投資しちゃ駄目」とか「ここには何割あそこには何割」とか、運用に関して規制でがんじがらめになっているのです。これでは運用が下手くそで当たり前です。
「もっと自由にやらせてやれよ」と言う機運は高まっているので、この規制はおいおい外れて行く事になるのではないかと思います。
このページは2004年7月〜2005年2月に配信したメルマガを再構成したものです。時間の経過とともに、文中の数字にはズレが生じており、また、制度や世情にも変化が生じている可能性がある事を、あらかじめ御了承下さい。
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