■年金講座 世代間の不公平
サイト目次を飛ばして本文へ



年金は本当に破綻するの?〜若者のための年金講座

第7章 世代間の不公平

老人の場合

「今の老人は、少ししか保険料を払って来なかったのに、年金をもらい過ぎている」と言う声をよく聞きます。「だから自分達は割を食うばかりだ」と言う気持ちが、若者達の年金離れの一因にもなっています。

 確かに私の周囲にも、年金を使い切れずに貯金が貯まる一方の人や、どう使っていいのかがわからずに毎年海外旅行で豪遊する人や、飛び込みセールスな人をどんどん家に招き入れる人がいます。400万とか、それ以上の年金を手にしている人達です。
 しかし、この様な人達の話をよくよく聞くと、制度改革前の共済年金だったり(昔の共済年金は大変恵まれていたらしい。民間よりも公務員の方が貧乏な頃の人達の話です)、戦争未亡人で軍事恩給をもらっていたり、厚生年金にプラスして労災保険の年金をもらっていたりな人達です。

 厚生年金+国民年金の最大の給付額は、理論値でだいたい300万円程度です。学卒後から隠居するまで、ずっと社長で高給取りだったと言う人だとこの理論値になりますが、そんな人はそうそういるもんではありません。
 夫婦の年金を合わせて300万円を越える例も多くはなく、平均でだいたい240万円程度になる様です。この程度の年金額では、たまに旅行が出来る程度で、ぜいたくな暮らしは出来ません。

 一方「たいして払っていない」と言う指摘は、当たっています。
 現行の厚生年金のスタート時、戦後混乱期で生活が苦しかった事や、親の面倒と自分達の保険料の二重の負担を強いられる事などから、必要な額の3分の1しか保険料を負担してもらっていませんでした。保険料率を徐々に上げて行き、正規の保険料よりも少し割高な状態で止めると言う設計になっていたのです。
 しかしその後、安心して老後が暮らせる様にと、給付をどんどん良くして行ったのですが、保険料の方はそれに伴って上がる事はありませんでした。厚生省が給付UPと負担UPをワンセットで国会に示しても、議員さん達は給付UPは通しても負担UPは通さないと言う「大盤振舞」を続けてしまったのです。おかげで今でも、保険料は必要な額に追いついていません。
 国民年金でも事情はほぼ同じで、必要額の2分の1の保険料で制度をスタートさせ、その差は縮まる所か広がる一方となり、老齢年金がもらえる人達が出現し始めた途端に財政が破綻してしまいました。

 どの程度負担が少なかったかと言うと、現在70歳の人なら3年で、80歳近くの人ともなるとたったの1年半で元を取ってしまっていると言うすごい状況です。

 ひと頃、物価の上昇がものすごくて、お金の価値が当時と今とでは全く違っています。ですから、当時払ってもらった保険料と今の年金額とを比較する事自体が無理があります。
 また、年金をもらっている人達は、よく「親の面倒を見ながら年金を払って来たのだから、今の人よりも負担は重かったんだ」と言います。
 しかし、それらを割り引いたとしても、ものすごい大盤振舞である事には違いはなく、そのために次の世代に大変なツケを回してしまったのだと言う事を、現に年金をもらっている人達にはきちんと認識してもらわなければなりません。

 ただし、今の老人が、がむしゃらになって働いて、戦後復興させて高度成長させた結果、「大不況なのに食べ物を捨てる余裕がある」と言う世にも不思議な国(とても恵まれた国)になったのだと言う事は、若い人達もきちんと認識して下さい。(今の老人達の方が、我々よりも何倍も苦労しています)
 また、大盤振舞してしまったのは厚生省ではなくて国会議員達です。やっぱり、雰囲気で投票したり投票に行かなかったりでは駄目だと言う事なのでしょう。それに「金払いたくないけど金はくれ」的な国民性が、こんな事態を招いてしまったとも言えるのではないでしょうか?

若者の場合

「今どきの若者は」と言う言葉がよく言われます。ただこの言葉、いつの時代でもよく使われる言葉でもあるので、「今どき」の若者は昔の若者と比べて劣っているとは、私は思っていません。
 今どきの若者も、あと10年か20年すれば時代の主役となり、その人達の気質が当たり前のものとなる日が必ず来ます。

 で、その今どきの若者達が、会社に就職すれば「厚生年金に入りたくない」と言っては社長を困らせ、国民年金に至っては半数の人が未納を決め込んでいます。
 そう言う人達と話をすると、皆が「年金は元が取れない」と言う事を口にします。

 年金には、保険料だけでなく税金も投入されている分だけ、元本割れの可能性はほとんどありません。
 確かにリターン率がどんどん悪くなっていて、世代間でかなりの不公平があるのは事実で、この点は早急に改革をしなければなりません。(不公平を少なくするためには、保険料UPを極力早いピッチで勢いよく行わなければなりません)
 でも、年金は貯蓄ではなくてそもそも保険なんだから、損得を考える事自体がおかしいんだと言う事は、このメルマガでも何度も取り上げて来た通りです。

 保険とはすなわち、相互扶助のためのシステムです。助け合い精神よりも損得勘定の方が先に頭に浮かんでしまうのには、この私でも「今どきの若者は」と言いたくなります。
 個人主義が行く所まで行ってしまったと言う事もあると思いますが、小中学校で修身や道徳と言った教科の時間がどんどん減らされて行った弊害と言えるのかも知れません。

 若者は将来の事をあまり考えないと言うのは、今も昔も変わらないでしょう。ただ、それをいさめる大人がいなくなってしまったと言うのはあると思います。
 物質文明も行く所まで行ってしまったので、次々と消費するのが当たり前な生活になってしまっていて、今の若者はとてもとても老後の資金にまでお金が回りません。

 バブルがはじけてから十数年が経ちました。今どきの若者〜20代の人達には、人生の中で景気のよかった時が全くない状態になってしまっています。
> 就職するのも非常に困難で、自由に使えるお金も少ない。そんな苦労をしながら生活しているのに、先の世代の人達はバブルで美味しい思いをした上に、自分達の何倍ものリターンで年金がもらえる。どうしてそんな人達のために保険料が払えるのか。
 私はそんな事を言われた事があるのですが、おそらくこれが多くの若者の気持ちなのではないかと思います。
 また「自分達が享楽的な生活を好む世代になったのも、そう言う風に自分達を育てた先の世代が悪いのだ」と言われた事もあります。

 今どきの若者が、そうれほどまでに心が堅くなってしまい、未来に希望を見い出せないでいると言う事を、年配の方は意識する様にして欲しいです。そしてその上で、身近な若者達と語り合う時間を積極的に作る様にして、生き方を教えて行って欲しいのです。(年金も生き方の中のテーマのひとつですね)

 そして、若者達には、あなた方のその考えは単なるひがみ根性であると言いたいです。何でもかんでも人のせいにするのは簡単な事なので、そんな事を言って楽な方に逃げているんだなと感じます。世の中を変える力は自分達の中にあるんだと言う事を自覚する様になって下さい。
 ひょっとして、年金不信の話題を、単なる「保険料を払いたくない」と言う気持ちを正当化する口実に使っていませんか? そこの所を、もう一度点検してみて下さい。

 損得勘定で言うのであれば、年金は「長生き」に対するリスクをカバーしてくれるばかりか、障害者になってしまった時の生涯保障や、死亡時の保障(生命保険の様な一時金でおしまいなのではなく、遺族の生活の生涯保障)もついて来て、それなのに民間には絶対に真似の出来ない破格値な保険料で、超お買い得商品(だから、何口も加入したくても払わせてくれない)である事には違いはありません。

中年の場合

 年金について語る時、この30〜40歳代の人達が語られる事はあまりありません。
 しかし、この世代が他の世代と比べて、一番困った世代だったりします。

 世代的には、貧乏な日本を知っている最後の世代ではあるのですが、バブル絶頂期に若者時代を過ごし、一番美味しい思いをした世代でもあります。そのためか、この世代が今でも一番消費が激しい世代となっているのです。
 一度覚えてしまったゼイタクは、なかなか改める事ができません。この不況の中で所得は歳相応には増えないのに、消費はかつてのままなので、貯金する余裕などとてもありません。

 私の周囲にも、お金を使う事でしか自己表現ができない人が大勢います。
 例えばパソコンやデジタルカメラなど、カタログスペックを何よりも重視するあまり、自分の使い道や使い方に合う物を選ぶと言う視点がすっかり抜け落ちてしまい、新製品を次々と買っていく人が、私の身近に何人もいます。いわゆる「スペックマニア」と言う人達です。
 その様な人達は「自分はこれだけのものが買えるのだ」と言う事に満足を覚えるのだと思います。しかし、そこまで行くと、買い物の目的は「道具を入手する」ではなくなっていて「お金を使う」事になってしまっています。

「消費は美徳」とされ、お金を使う事がなにより良い事だと教えられて育って来たために、浪費癖のある資質になった事自体は責められる事ではないのですが、でも、「よ〜く考えよう、お金は大事だよ」に時代は変化しているのです。

「将来、年金は月々30万円はもらえると思っていたのに、人から『せいぜい15万円だよ』と言われてショックを受けた」と言う人もいるみたいですが、年金制度をどう頑張って改革しようとも、月々30万円な年金が実現する様な事はありません。
 老後に月30万円な生活がしたいのなら、今、懸命に節制して、たくさん貯金をしなければなりません。今、使うお金を減らさないのなら、老後は月10万とか15万で生活をしなければなりません。

 どちらにしろ、生活態度を改めて「足るを知る」事を身につけなければなりません。

世代間不公平よりも…

 マスコミに「割を食うだろう」とあおられ、現に今の老人のもらいっぷりがすごいので、若者の間で不公平間がふつふつと煮えています。しかし、世代間の不公平よりも、制度間の不公平の方が、ずっと深刻だったりします。

 現在の日本の年金は、大きくふたつに分けられます。厚生年金と国民年金です。(共済年金は厚生年金の亜流になります)
 厚生年金は雇われる人の年金として、国民年金は自営業の人の年金として作られました。

 厚生年金では、給料の額を届け出てもらう事で、その人の稼ぎに応じて保険料を集めて年金を払う仕組みになっています。
 国民年金では、自営業には給料と言う概念がないので、どれだけ保険料を取ってどれだけ年金を払えばいいのかが、厚生年金の様に決める事ができません。そこで、保険料も支給も定額制となりました。稼ぎの少ない人でも無理のない様にと、保険料は安めの金額になり、その代わりに支給の方も安めとなりました。自営業には定年がないので、安い年金でも大丈夫だろう、と言う理屈です。

 所が現実には、厚生年金は金持ちの入るもの、国民年金は貧乏人の入るものになってしまっています。

 法人の会社なら例外なく、個人経営でも5人以上の会社なら、厚生年金に入らなければなりません。しかし、小さくて経営がギリギリの会社になると、厚生年金に入っていない所が多いのです。
 また、厚生年金に入っている会社で、週30時間以上で、1年以上続けて勤めるつもりなら、厚生年金に入らなければならないのに、パートやアルバイトを厚生年金に入れない会社も多いです。
 厚生年金に入れなかった人達は、国民年金に入る事になります。別に自営業と言うわけでもないのに「自営業のための年金だから、安くていいのだ」と言われると、もう泣くしかありません。勤めた会社次第で、勤め方次第で、老後の生活までもがはっきりと差が出てしまうのです。

 たとえ今の稼ぎが少なくとも、国民年金の年80万円では老後はとてもやって行けないから、今の生活を切り詰めて「国民年金を倍払いたい」とか「自分で厚生年金に入りたい」とか思っても、国はそれを認めてはくれません。
「当てにできないのだから、自分で何とかする。だから払わない」と言う気持になるのも、無理はないと私は思います。

免責

 このページは2004年7月〜2005年2月に配信したメルマガを再構成したものです。時間の経過とともに、文中の数字にはズレが生じており、また、制度や世情にも変化が生じている可能性がある事を、あらかじめ御了承下さい。
 扱うテーマが「年金」と言う制度と法律に関するものではあるのですが、概念的な部分を取り上げるため、どうしても厳密さや正確さに欠ける傾向にあります。ですから、何かの判断の参考にする場合や手続きを行う時は、必ず別の情報源でも確かめて下さい。このページの記事により損害が発生しても、補償は一切いたしませんので、あらかじめご了承ください。



吉田社会保険労務士事務所 (c) NYAN@chimaki-tei 2001/2015
お問い合わせ先