■年金講座 国の方針
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年金は本当に破綻するの?〜若者のための年金講座

第4章 国の方針

自助と自立

 日本は社会主義国ではないので、国民生活の何から何までを国が面倒見ると言う事はありません。どう暮らしどう生きるかは、国民の自由に任されています。
 自由と言う事は「自分の事は自分で何とかしろ」と言う事でもあります。(自由と責任は一体のもの、と言う事ですね)
 老後の生活についても、国は、国民の「自助と自立」を基本にするべきだと考えています。

 もちろん、年金なんかなくたってやって行ける自信とプランがあって、現にそれを実行出来ている人は、年金なんか払わなくたっていいと私は思います。しかし、現実にそれが出来ている人は、本当にごくごくわずかなのではないでしょうか?
 今の日本では、普通の人なら40年働いて20年の老後を送る事になります。つまり単純計算すると、今稼いでいる月々の給料のうちの3分の1は、将来のために貯蓄しておかないと、老後を暮らせないと言う勘定になるのです。
 年金なんか払わなくてもいいと思っている人や、現に払っていない人は、老後資金として現金がどれだけ貯まっているのかを今一度確認してみて下さい。30歳なら500万円、40歳なら1,200万円貯まってなければ「自助自立にはほど遠い」事になってしまいます。

 あなたが、もしその気になれば数千万円をひねり出す事が出来る様な「A様」なら、老後の心配などする必要はありません。でも、「A様」になれるかどうかは才能や努力も去る事ながら運にも左右されるので、「B様」になってしまう人達を一様に責める事は出来ません。皆、「B様」になりたくてなっているわけではないのですから。

 何かの拍子にそれまでの努力が全てフイになる事もあるのが人生だし、自助自立の出来ない人がとても多いと言うのもまた現実なので、国はセーフティネットとして国民年金の制度を用意しています。全国民を強制的に加入させ、万が一の人生を送ってしまった人でもギリギリの老後を送れる様にしてくれているのです。
 厚生年金の場合は、国はもう一歩踏み込んだおせっかいをしてくれていて、生涯ひとつの会社で順調に出世して勤め上げれば、並な生活が出来るだけの年金を出してくれます。(そう言う人生を送る人も、いつしか少数派になってしまいましたが)

 年金の保険料は収入の3分の1には遠く及ばないので、もらえる年金の額もそれなりでしかありません。足りない分は、やっぱり自助努力で貯えなければならないのです。

賦課方式

 日本の年金制度は、賦課方式です。
 この「賦課」と言う言葉、日常で使う事が全くないなじみのない言葉なんで、ちょっと辞書で調べてみました。

ふ‐か【賦課】
租税などを割りあてて負担させること。(広辞苑・第四版)

 何の事かと言うと、つまりは「いくら払わせるかはお上が決める」と言う意味の様です。

 年金で言う所の賦課とは「今年必要な金額は今年集める」と言う事になります。「将来あなたがもらう年金はこの金額だから、逆算して今年はこれだけ払ってもらいます」と言う決め方(積立方式)ではなく「今年給付する年金はこれだけだから、頭数で割ってこれだけ払ってもらいます」とお上が勝手に決めていると言う事です。

 つまりは、

  • 賦課方式=全国の老人達を全国の現役世代で養う
  • 積立方式=自分の老後は自分の積み立てでまかなう

と言う事になります。

 賦課方式のせいで、今払った金額が、将来自分がもらう金額とは関係のない、お上が勝手に決めた金額なので「それって何か不公平じゃん」と言う気持が芽生え、年金不信の原因のひとつにもなっています。
 なら、何で年金は積立方式ではなくて、賦課方式を採用しているのでしょうか?

 賦課方式は物価の変動の影響を受けないのです。今年必要なお金を今年調達するので、年々物価がどう変わろうと、年金の価値は変わらないし、負担も変わらないと言うわけです。これが賦課方式最大の利点となります。
 対する欠点は、自分が払ったお金と将来もらうお金との間に関連性が薄いので、不公平感があると言う事と、老人と現役世代の比率の変化に大変弱いと言う事になります。
 積立方式は、負担と給付の関係がはっきりしているので安心出来るのと、人口比がどう変わろうと影響を受けない一方、物価の変動には無力ですから、ちょうど賦課方式の利点と欠点の逆になります。

 日本は資本主義の社会ですから、いつまでも延々と成長を続けなければ経済を維持する事が出来ません。成長が続く限り、物価はどうしても上がります。
 最初、日本の年金は積立方式でした。高度成長期に物価はものすごい勢いで変化し、お金の価値が何桁も変わってしまい、年金の財政もかなりひどい目に遭いました。そこで厚生省は、物価変動に強い賦課方式に方針を変更したのです。

 しかし、今度は高齢化と少子化がやって来て、賦課方式の年金財政を直撃しようとしています。上手い事に経済の方は低成長で物価も安定しているので、だったら賦課方式から積立方式にもう一度戻ればいい様な気がするのですが、そうは問屋が卸さないのです。

 積立方式から賦課方式へ移行するには「今日から積み立てるのをやめます」と宣言すれば済むので、簡単でした。しかし、賦課方式から積立方式に移るとなると、これまで積み立てていなかった分をどこからか持って来なければなりません。何年にも渡って税金をドンと積むか、かなり割増の保険料を取るか、と言う事態になってしまいます。
 つまりは、積立と賦課の切り替えは、一方通行だったと言う事なのです。

保険料方式

 日本の年金は、保険料方式です。
 保険料方式とは、年金に必要なお金は保険料として被保険者(保険の加入者)に負担してもらうと言う仕組みの事を言います。
 保険料方式に対するのは、税方式です。年金に必要なお金は税金として取り立てると言うものです。

 保険料方式を採用する事によって、自分の払った保険料と将来もらう保険金との間に関連性を持たせる事が出来るので、自己責任や自助の精神を育む事が出来ると言う長所を持っています。
 一方、税方式は、税金として取り立てる金額と、年金として配布する金額との間には関連性はありません。税金を払えない様な貧乏人にも、普通の年金を配布する事が出来ると言う長所を持っています。

 つまりは、

  • 保険料方式=受益者負担の性格が強い
  • 税方式=福祉(ほどこし)の性格が強い

と言う事になります。

 保険料方式を採用しているものの、完全な保険料方式とすると保険料を払えずに年金がもらえなくなり野たれ死にしてしまう人がどうしても出て来るので、国民年金の保険料のうち3分の1は税方式にして、保険料を払えない人達でも3分の1は年金をもらえる様にしています。
 保険料を払わなくても3分の1の年金がもらえるのは、「払えない人」と役場で認めてもらった人の場合です。勝手に払わなかった人は単なる未納なので、ビタ一文出ません。自分の給料からの天引きや日々の消費税で払った税金のうち、月々6,650円(40年分だと300万円)が年金として戻って来るはずの所を、未納していると言う理由でそのお金をドブに捨てていると言う事になります。
 この、3分の1の税金投入を2分の1に引き上げる事がすでに決まっています。となると、どっちが主でどっちが従なのかわからない状態なのですが、それでも厚生労働省は「わが国の年金は保険料方式なのだ」と主張をしています。

 保険料は、払わなかった時の不利益がはっきりしているので、強い態度で取り立てをするのが少々難しいと言う性格を持っています。一方、税金は有無を言わさず取り立てる事が出来るものです。
 実際、破産してしまった人に対して、社会保険の保険料は税金よりも取立の優先順位が低くなっています。国民健康保険では、市町村が税か保険料の好きな方を選べる様になっているのですが、ほとんどの市町村が取立しやすい「国民健康保険税」を採用し、「国民健康保険料」を採用している市町村はほとんどありません。

 現在、国民年金の保険料(月額13,300円)を払わなければならない人達(第1号被保険者)のうち、「払えない人」と認めてもらって免除してもらっている人達が全体の6分の1、勝手に払わないで未納している人達が全体の3分の1にもなっています。
 国民年金は厚生年金に入っている人達にも負担してもらっているので、制度全体で考えると払っていない人は15%ほどなので財政を直撃する心配はないのですが、制度全体ではなく、自分で払いに行かなければならない人達(第1号被保険者)のうちの2分の1もの人達が払っていないと言うのは、制度としてもはや成り立っていないんじゃないかと言われても仕方がない事だと思います。
 そこで出て来る考え方が「保険料方式なんかやめて、100%税方式にしてしまえ」と言うものなのです。

 100%税方式になれば、免除を受けていたために年金が3分の1になってしまって首が回らない人達も、若い頃に未納を決め込んで歳取ってから青くなる人達も、なくす事が出来ます。
 税金がそれ相応に高くなりますが(消費税が10%UPして15%程度になる、と言われています)、月々払っていた13,300円(夫婦だったら26,600円)がなくなるのですから、家計上はそれほどの負担の違いは現れないはずです。厚生年金加入者にとっても、厚生年金制度からの国民年金分負担がなくなるのですから、その分保険料がグッと安くなり、税金UPと相殺されます。使えるお金が減って困るのは、今まで払ってなかった人達だけです。

 なかなかナイスアイデアだと思うのですが、税方式への方針転換は、厚生労働省がかたくなに拒否をしています。
 理由は、受益者負担でなくなるので、国民自らが参加して年金制度を支えているんだと言う意識がなくなってしまい、制度自体がなし崩しになる、と言う事の様です。しかし、それよりも「自分達のお仕事が減ってしまう」とか「保険料方式を上手くコントロール出来なかった自分達の非を認める事になる」と言う事の方を問題視しているのかも知れません。

 保険料方式と税方式の行き来は、賦課方式と積立方式の行き来の様に厳しい制約があるわけではないので、議論の余地はあります。皆さんの周囲でも、それぞれの方式の利点と欠点を話し合ってみて下さい。

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