第1章では日本の年金は保険であると言う事を説明しました。
保険である以上は損得勘定を考えると原理原則を見失ってしまうのでよくないのですが、それでも皆さんの関心は「損か得か」である事には違いはないと思います。
年金ではほとんどの人が保険金を受け取る事になるので、どうしても貯蓄っぽいイメージがあり、損得勘定を考えてしまうのは、仕方がない事なのでしょう。
そこで、年金の損得を、ズバリお答えします。
「そんなもん、誰にもわかりません」
どうしてそんな答えになるのかと言うと「あなたが何歳まで生きるのかなんて事は、本人はおろか誰にもわからないから」なのです。
でも、そんな答えなら、このメルマガを読む意味がありませんよね。そこで、仮にあなたが平均寿命まで生きたと仮定してお話しましょう。
国民年金と厚生年金とでは、払う方ももらう方も計算方法が違うので、別々に見て行きましょう。まずは、国民年金についてです。
「16年で倍のリターン」とは、「8年で損益分岐点」と言い替える事が出来ます。
国民年金は「最低限の所得の保障」と言う役割を担っていて、そこから金額が決められました。「目指せ5万円年金!」をスローガンに、制度創設以来年金額を上げる事に努力が注がれて来ました。5万円年金(年額60万円)を達成出来た後は、物価と連動する形で年金額が動き、現在の80万円に至っています。
と言っても現在の年額80万円(月66,000円)では、はっきり言って爪に火を灯す生活しか出来ません。それを下げるとなると、国民年金の存在意義そのものが崩れてしまう、とんでもない話なのです。
それが、平成16年の国会で、厚生年金同様に国民年金の給付の切り下げが決まってしまいました。野党はこぞって猛反発していますが、皆さんも怒って下さい。
で、「年金は損か得か」の結論なんですが「あなたが人並みに生きられるのであれば、損はしません」と言う答えでよろしいでしょうか?
年金は、税金が投入されている分だけ、民間会社がどれだけ努力しても絶対に太刀打ち出来ない、最強の金融商品になっているのです。
国民年金の損得に続いて、厚生年金の損得についても見てみましょう。
まず、損得について計算する前に、厚生年金のしくみについて説明します。
厚生年金とは、会社員のための年金制度で、国民年金同様に国(社会保険庁)が運営しています。
厚生年金に入れるのは、会社勤めの人だけ。厚生年金に入っているかどうかは、給与明細に厚生年金の天引きがあるかどうかでわかります。保険料は会社と本人の割り勘になっています。
厚生年金に入っている人は、自動的に国民年金にも入っています。国民年金の保険料は、厚生年金の保険料の中に含まれています。
さらに奥さん(勤め人な女性に養われている主夫な旦那さんでもOK)がいる人には、奥さんの国民年金の保険料は厚生年金制度全体から出してもらえるので、自分で払う必要はありません。
ではお待ちかね、厚生年金の損得について計算してみましょう。
…何か忘れてますね(^^;)ゝ
あなたが払う厚生年金の保険料には、あなたと奥さんの国民年金の保険料も含まれています。だから、その国民年金からもらえる年金も計算しないと駄目ですよね。
国民年金は1か月保険料を払うと、将来の年金(年額)は1,655円増えます。だから、今月天引きされたひと月分の保険料は、次の年金額(年額)となって返って来るのです。
19,012円×7.9% + 1,655円×2 = 4,812円
(2でかけるのは、自分と奥さんの2人分だから)
40年払うと、年金額は年230万円になります。(充分に暮らせて、毎年旅行も出来ます)
で、損益分岐点ですが、月19,012円払うと、年額4,812円になって返って来るわけですから、4年で元が取れてしまう勘定になります。
たったの4年?
会社が払っている分が計算に入っていません。もしも厚生年金がなければ、その分自分の給料が増えるはずですから、会社負担分も計算に入れないとおかしくなります。
月38,024円払うと、年額4,812円になって返って来ると言う勘定です。損益分岐点は8年になります。
厚生年金の損益分岐点も、国民年金の損益分岐点も、同じ8年になりました。この一致は偶然ではなく、どちらも最初から「平均寿命まで生きたとして、倍のリターン」と言う設計になっていると言う事を現しています。
自分の年金は一体いくらになるのかと言うのは、これはなかなかピンと来ないものなのですが、「今月これだけの保険料を払うと、年金の額はこれだけ増えますよ」と言う数字なら、次の様なとても簡単な式で現す事が出来ます。
国民年金を払った人=1,655円
厚生年金を払った人=給与明細の年金の天引き額×7.9%+1,655円(+奥さんの分の1,655円)
これを払い終わるまで毎月積み重ねて行った額が、将来もらう事になる年金(年額)となります。
ただし、年金額は物価に応じて変化する様になってますし、平成16年の年金改革の様に給付率を見直す事もあるので、数十年後には給付がいくらになっているかは誰にも予想する事が出来ません。
だから、どこの誰も「あなたの年金はいくらになりますよ」とは教えてくれないんです。
でも、「現在の時価」ならこの様な非常に簡単な式でズバリ正確に計算出来ますので、保険料を振り込むor給与明細をもらうたびに、「私の年金はこれだけ増えた」と確認をして、いつの日かもらえる時の事を指折数えて楽しみにして下さい。
国民年金は、払った保険料にそのまま比例して年金額が決まるので、大変わかりやすいです。
一方わかりにくいのが厚生年金です。厚生年金の本体部分は、天引きされた保険料の7.9%で比例しているのですが、おまけで国民年金がついて来る(しかも夫婦二人分も)と言うのがミソなんです。
夫婦二人分の国民年金の保険料26,600円は、皆さんと会社が払っている厚生年金の保険料の中に含まれているのです。
「あれ? 私、そんなに保険料払ってないんですけど」そう言う人が皆さんの中にいるかも知れません。そうなのです。天引きが1万円しかない(会社負担分と合わせて2万円しかない)人でも、国民年金二人分に加え、1万円の7.9%が毎年年金となって返って来るのです。払っている額が国民年金の保険料よりも安いのにです。その足りない保険料は、誰が穴埋めしてくれているのでしょうか?
実は、全国の厚生年金を払っている人全員で、全員(+全員の妻)の国民年金保険料を負担し合っているのです。
この「国民年金がおまけでついて来る効果」は、保険料が少ない人ほど得をして、保険料が多い人ほど損をする様に出来ています。
先に、月給28万円の人の場合を例にとって、損益分岐点を計算してみましたが、ちょっとここで、他の金額の場合を計算してみましょう。
月給 | 損益分岐点 |
---|---|
15万円 | 5年0月 |
28万円 | 7年11月 |
44万円 | 10年6月 |
この様に、給料が高い人は、なかなか元が取れません。一方、給料の低い人は、すぐに元が取れてしまいます。
厚生年金には「金持ちからふんだくって、貧乏人に分ける」所得再分配の機能が組み込まれているのです。
国民年金での所得再分配機能は、保険料の一部を税金でまかなう(税金は金持ちほど多く払っている)事によって作られていましたが、厚生年金の所得再分配機能は、それよりも露骨に出来ています。
このページは2004年7月〜2005年2月に配信したメルマガを再構成したものです。時間の経過とともに、文中の数字にはズレが生じており、また、制度や世情にも変化が生じている可能性がある事を、あらかじめ御了承下さい。
扱うテーマが「年金」と言う制度と法律に関するものではあるのですが、概念的な部分を取り上げるため、どうしても厳密さや正確さに欠ける傾向にあります。ですから、何かの判断の参考にする場合や手続きを行う時は、必ず別の情報源でも確かめて下さい。このページの記事により損害が発生しても、補償は一切いたしませんので、あらかじめご了承ください。