■年金講座 年金は保険である
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年金は本当に破綻するの?〜若者のための年金講座

第1章 年金は保険である

ヨネさんの面倒を誰が見るのか?

 ここに、ひとりのお婆さんがいます。名前はヨネさん、81歳。ヨネさんは、体はそこそこ動くし口も達者なのですが、しかし、若い頃の様にビシバシと大根やネギを出荷する事は出来ません。
 ヨネさんに自分で稼ぎ出す能力がない以上は、誰かがヨネさんを養わなければなりません。
 では、誰が養うべきなんでしょうか?

  1. ヨネさんの子供が、同居してくれたり仕送りしてくれたら、それに越した事はありません。
  2. もし、ヨネさんにたくさんの貯金があれば、その貯金を切り崩して生活出来ます。これは「若い頃の自分が、老いた自分に仕送りをする」と言う事になります。
  3. お年寄りは貴いもの。だから、ヨネさんの住む集落のみんなで、ヨネさんを支えて行こうと言う考え方があってもいいと思います。

 しかし、そうそう万事がうまく行くとは限りません。

  1. 何かの事情で子供を持てなかったり子供と離縁してしまったたり、親不孝にも子供に先立たれてしまった人は、養ってもらえる当てがありません。
  2. 予定通りに死ねればいいのですが、しかし不幸にも、その予定が狂うと貯金が底をついてしまいます。
  3. 地域で老人の面倒を見るのが当たり前な時代もありました。しかし、老人の数が増えた上に、現在の日本は「隣は何をする人ぞ」状態になってしまったので、今ではこう言う考え方もほとんどなくなってしまいました。

 人によって、状況が違えば、寿命も違います。「老後はどうなる?」と言うリスクは、人によってバラバラなのです。特に寿命は、前もって予測する事が出来ないために、そのリスクを見積もる事すらきません。
 そこで考え出されたのが「保険と言うシステムを使って、老後のリスクを何とかしよう」と言うものでした。保険と言う考え方を組み入れる事によって、各自バラバラだったリスクを平均にならす事に成功したのです。
 とどのつまり「全国のお婆さんを、国民みんなで面倒見よう」と言う考え方です。このシステムこそが年金なのです。

「少子高齢化で年金が危ない」とよく言われます。しかし、よく考えて下さい。年金制度がなくなってしまったとしても、今、現にここにいるヨネさんが、パッと消えていなくなるわけではないのです。結局、ヨネさんを誰かが養わなければならない事に、違いがないのです。
 年金がもしなかったら…まぁおそらく子供が親の面倒を見る事になるのでしょう。しかし、今や一人っ子の時代ですから、4人の親を2人の夫婦で面倒を見なければなりません。結局、年金制度があってもなくても、先の世代を世話する負担の大きさにはあまり差がないのです。

年金の保険事故とは?

 そもそも年金とは一体何なのか? 最初にそう思った私は、まずは辞書で調べてみました。

ねん‐きん【年金】
年を標準として定めた金額を定期的に給付する制度のもとで、支払われる金銭。(広辞苑・第四版)

 年単位で決められた金額を、支給するのが年金、と言う事らしいですが、今ひとつよくわかりません。
「日本の年金制度は保険の一種なのだ」と年金の講義で教わった覚えがあったので、今度は保険を辞書で調べてみました。

ほ‐けん【保険】
死亡・火災などの偶発的事故の発生の蓋然性が統計的方法その他によって或る程度まで予知出来る場合、共通にその事故の脅威を受けるものが、あらかじめ一定の掛金(保険料)を互いに拠出しておいて、積立金を用いてその事故(保険事故)に遇った人に一定金額(保険金)を与え、損害を補償する制度。(広辞苑・第四版)

 わかりやすく書き直すと、こう言う事になります。

  • みんなで保険料を出し合い(保険料を払っておき)
  • 事故があって困っている人に(事故があった時に)
  • 保険金を払って助け合う(保険金をもらう)

 身近な所では、生命保険(死んだら遺族に当面の生活費が出る)や、自動車保険(事故ったら相手への弁償を肩代わりしてくれる)、火災保険(家が燃えちゃったら再建費用をくれる)、最近の流行ではガン保険(ガンにかかったら入院費をくれる)などがあります。

「どうして、歳を取るとお金がもらえるのが、保険になるの?」と言う疑問が出て来ると思いますが、つまりはこう言う事なのです。

「働けなくなってしまった時に備えて、かけておく保険」これが年金です。

 年金での「保険事故」とは「何かの理由で働けなくなり、生活のための収入がなくなってしまった」と言う事になります。
 具体的には、こんな「事故」があります。

  • 障害者になってしまって、働けなくなってしまった(障害年金)
  • 死んでしまって、働けなくなってしまった(遺族年金)
  • 歳を取ってしまって、働けなくなってしまった(老齢年金)

 これら保険事故に見舞われると、収入の道が断たれて、いきなり生活が立ち行かなくなってしまいます。そんな時の生活費を支払ってくれるのが、年金なのです。
 皆さんがよく勘違いしているのが「年金は老後のためだけのものだ」と言うものなのですが、そうではありません。老後だけではなく、障害者になっても、死んでしまっても、同じ年金制度の中から生活費をもらう事が出来るのです。

 ここまで理解すると、大変重要な事がいくつか見えて来ます。

 まず、年金は、積み立てではないと言う事です。保険ですから、加入早々に事故にあえば、払った保険料よりもたくさんの保険金が下りる事になりますし、いつまでも事故がなければ損をします。
 保険である以上は、損得勘定で考えると判断を誤ってしまいます。世の中のどの保険もみんな同じで、「お金を出して、安心を買う」ズバリこれが保険です。

 そして、年金は保険ですから、当然の事として保険料を払ってない人には保険金は出ません。「自動車保険のお金をちょっと払い忘れたがために、事故があってから途方に暮れる」なんて話をよく耳にすると思いますが、年金でもこれは同じです。「老後の事なんか今から考えないよ」とか言って年金の保険料をほったらかしにしていて、ある日突然障害者になってしまい、年金が出ずにいきなり生活出来なくなってしまう人があまりにも多く、社会問題になっています。

長生きはリスクである

 よっぽど不幸な事がない限りは、普通の人は普通に歳を取って年金をもらえる年齢を迎える事が出来ます。ですから、年金=保険(保険=事故に備えてかけておくもの)と言うのが、あまりピンと来ないかも知れません。

 しかし、年金と言う制度が出来る前までは、長生きすると言う事は、とてつもなく大きなリスクだったのです。

 いつまでも元気に働ければいいのですが、歳を取るとそうも言っていられなくなります。だんだんと働く能力が落ちて来て、やがては全然働けなくなってしまいます。
 年金がない様な昔な時代では、おそらくほとんどの家が蓄えもなく「その日暮らし」をしていた事でしょう。家族全員がそれぞれの労働力を持ち寄って働き、日々、一家の食いぶちを確保していたに違いありません。赤ん坊は働けないのですが、将来の労働力となる事に期待して投資のつもりで食べさせてやります。しかし、老人はそうは行きません。
 老人がいつまでも死なずに長生きすると言う事は、家計を圧迫するリスクになるのです。

 どうしてもやり繰り出来なければ、口減らしの必要も出て来るでしょう。そんな所から、日本の昔話に「おば捨て山」と言うお話が残っていたりするのです。

 では、現代ではどうなのでしょうか?
 自分の事として、皆さんでちょっと考えてみて下さい。自力で老後資金を何とかすべく、貯金する事を思い立ちました。そこで、目標とする(必要になる)金額を、どうやって見積もりますか?
 平均寿命で計算しますか? それとも「この位まで生きたい」と言う希望の年齢を設定しますか?

 例えば、90歳まで生きるつもりで、65歳からの25年分を考え、3,000万の貯金に成功したとします。そして、計画通り月々10万円ずつで生活して行ったとします。
 計画通りに90歳で死ねれば何の問題もないんです。でも、いざ90歳になってみて「90歳まで生きる計画だったから、自殺でもするか」なんて考えますか?
 もしも100歳まで生きちゃったら、いくら節約したってお金は足りません。計画は元からひっくり返ってしまいます。もちろん、80歳で死んじゃったら、そんな心配もないのですが。(貯金を残して死んじゃうから、ちょっと悔しい)

 そう、現代でも、長生きすると言う事は、でかいリスクなのです。

「その人は何歳で死ぬのか」と言う事がわからない限りは、老齢は必ずリスクになります。そして、その人の寿命を知るには、地獄まで行って閻魔大王に合い、閻魔帳を見せてもらうしか、方法がないのです。

 リスクをカバーするためのツールは保険です。ですから、日本の年金制度は保険の一種として運用されているのです。

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 このページは2004年7月〜2005年2月に配信したメルマガを再構成したものです。時間の経過とともに、文中の数字にはズレが生じており、また、制度や世情にも変化が生じている可能性がある事を、あらかじめ御了承下さい。
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